『時間ループ物語論 成長しない時代を生きる』
浅羽通明さんの『時間ループ物語論 成長しない時代を生きる』を読んだ。
一定の時を繰り返す物語について、アニメや小説、漫画、ゲーム、落語、神話などなど、サブカルチャーの範囲におさまらず古今東西の事例をあげて語った1冊。
前半は主にサブカルチャーの話題。中盤で分析とルーツ、後半は主に高等遊民の話で、読んでいてまったく飽きさせない。なんだか、自分のことを言われているような気が始終しながらの読書だった。
僕はかなり前になるけど、大阪で浅羽さんとの対談のイベントに参加したことがある。山本精一くんも一緒に。『フールズメイト』誌での連載を読んでいたので、南方熊楠でも読んでおかないと話についていけないかな、とおっかなびっくりだったが、実際にお会いしてみると、腰の低い実に真摯な方で、楽しくトークできた思い出がある。
以下、目次。

第一講:オリエンテーション
恒川光太郎「秋の牢獄」精読――ユートピアに囚われて
 「秋の牢獄」-ループする雨上がりの腫れた1日
 北風伯爵がやってくる
 渡り続ける11月7日という名前の夢
 リアルをとりあえず置いてきたリピーターたち
 何でもあるけど「希望」だけがないユートピア
 私たちは「秋の牢獄」を生きている

  
第二講:時間ループ物語とは何か①
未来喪失という拷問――「エンドレスエイト」ほか
 世界でただ一人「昨日」に取り残される恐怖-北村薫『ターン』
 同じ10分間が30年繰り返す倦怠-R・R・スミス『倦怠の檻』
 ほんの700万年、人類の時間止めちゃいます-S・スチャリクトル『しばし天の祝福から遠ざかり』
 自殺者は人生を無限にやり直さなければならない-田中小実昌『タイムマシンの罰』
 同じ演技を毎晩毎晩、何年も…という閉塞-S・エリン『パーティの夜』
 1053498回終わらない夏休み-『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ『エンドレスエイト』
 意識と記憶の連続、時間ループのジレンマ
 アニメ版『エンドレスエイト』が11回連続で描いた渋い「進歩」

 
第三講:時間ループ物語とは何か②
猶予された時間の生き方――「恋はデジャ・ブ」ほか 
 ある朝目覚めると、昨日が繰り返していた-『恋はデジャ・ブ』
 ループする時間の過ごし方-ニヒリズムを超えて
 もしも冴えないアラサー女性が人生やり直しをできたなら-『未来の想い出』
 専業主婦、ビジネス・ウーマン、元不良少女、もう一つの女の人生やり直し-垣谷美雨『リセット』
 「他人の芝生は青くない」とわかった女たちのニーチェ的「選択」
 とっても前向きな時間ループものの古典的名作-K・グリムウッド『リプレイ』


第四講:時間ループ物語とは何か③
ゲーム的試行錯誤の世界――「ひぐらしのなく頃に」ほか 
 時間ループ現象は問題先送りのメタファー!?
 1999年7月、ノストラダムスの幽霊たち-佐伯かよの『永遠の夜に向かって』
 あのときわたしが遅れなければ…、青春の「喪の作業」-伊藤伸平『はるかリフレイン』
 メタフィクション時間ループ・ミステリー-竜騎士07『ひぐらしのなく頃に』
 「ゲーム的リアリズム」考-桜坂洋『All You Need Is Kill』
 凡人の名探偵を可能にする時間ループ-西澤保彦『七回死んだ男』
 愛する者たちを助けるとは、何回も死ぬことだ-香納諒一『ステップ』
 ターゲットが絞られているシングル・イシュー型時間ループ
 時間ループの罠、意外な連鎖反応を阻止せよ-『バタフライ・エフェクト』
 人類破滅まで40年、来たる核戦争を回避できますか-筒井康隆『秒読み』
 もしモンゴル帝国が全世界を支配していたら-豊田有恒『モンゴルの残光』
 実ははた迷惑だった時間ループ-佐藤正午『Y』


第五講:時間ループ物語とは何か④
悦楽の時間よ、永遠に――「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」ほか 
 ずうっとずうっと楽しく暮らしていたいっちゃッ
 現実もそれはそれで終わらない「暴力が必要とは限らない」夢
 「日々、学園祭の前夜祭気分」の「おたく」たちのユートピア
 『エンドレスエイト』、もう一つの『ビューティフル・ドリーマー』
 デイタイムズビリーバーを永遠に-愛妻家が世界の未来を奪う
 終わらない初恋-『恋する死者の夜』と『長門有希の日記』
 恋愛という起動装置-時間ループはかく引き起こされ、かく終わらせられる
 「将来」「未来」を見据えるリアルな充実がモラトリアムを終わらせる
 戦争に匹敵する凝縮した充実が明日のないループ時空を成立させる
 恋愛が「夢の時空」からリアルへと変わったゼロ世代
 『魔法少女まどか☆マギカ』考-宇野常寛説への疑問


第六講:世代対立の不毛を超えて
コンテンツ批評諸家の時間ループ物語論へ物申す――『不可能性の時代』ほか 
 世界が終わる前日、僕たちは…
 「セカイ系」は時間ループの夢を見るのか
 道具としての「物語」論-社会反映論を超えて
 「いまの俺たちこそ特別な時代を生きている」という中二病
 「普遍化」という知の用法-「特権化」しがちな自分へ冷や水をぶっかけるために
 受け手系と送り手系?ネットで見つけた二つの分類
 時間ループ物語はいかなる願望を充足し、いかなる恐怖を洗い流すのか?
 物語の広大な宇宙の中で、時間ループ物語を捉え直すために


第七講:ループものの起源をさかのぼる①
人生時間の伸縮――『ファウスト』、輪廻転生、さまよえるユダヤ人ほか
 ファウスト博士のワイドスクリーン・バロック
 成長前向き型の時間ループのルーツ、近代的英雄の典型『ファウスト』
 東洋前近代の成長前向き型の時間ループ!!輪廻転生
 ネガティブな時間ループのご先祖さま-シジフォスの神話、浄土思想
 不死という刑罰、さまよえるユダヤ、オランダ人伝説
 ソクラテスにプラトン、偉人たちが暮らす地獄「リンボー」と「賽の河原」
 さまよえるユダヤ人、ひらき直る-シャミッソー『影をなくした男』
 ガリヴァーの悪夢-不老を忘れた不死
 北欧神話「ヴァルハラ宮」、イスラムの天女「フーリー」、ニーチェ「永劫回帰」思想

 
第八講:ループものの起源をさかのぼる②
予知と夢落ち――『フラッシュ・フォワード』「鼠穴」「芝浜」「夢金」ほか
 「時間」の不可逆性のジレンマ
 未来を知って生きたいという願望-「予知予言譚」
 予知譚からループへ-『フラッシュフォワード』と『7時03分』
 古典落語に見る夢ループ『鼠穴』『芝浜』『夢金』
 夢オチは東洋の神秘?-『邯鄲枕の夢』『南柯太守伝』
 夢という名の「脳内未来」-星新一『殺意』『改善』
 「物語」-操作可能なもう一つの「夢」

 
第九講:ループものの起源をさかのぼる③
物語の迷宮と時間の近代化――『デス博士の島その他の物語』『毒入りチョコレート事件』『時間の比較社会学』ほか 
 きみだって、同じなんだよ-再読、三読という時間ループ
 すべて名作小説は時間ループ物語である!?-塚崎幹夫『名作の読解法』
 事件の真相とは一創作に過ぎない-アントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』
 物語創作とは時間ループ作業である
 O・ヘンリーのマルチ・エンディング小説
 「時間ループ物語」はなぜ誕生したか
 動物化しなくても物語消費論は分岐の数だけある
 タイムトラベルの誕生-ループ物語の比較社会学
 『時間の比較社会学』再び、テレビという名の時間秩序


第十講:ループものの起源をさかのぼる④
浦島太郎伝説とユートピアの陥穽――『母性社会日本の病理』『銀河鉄道999』『夢十夜』ほか 
 そうよ、怖いカニが待っているのよ
 河合隼雄『母性社会日本の病理』の予見
 竜宮城はアキバである
 浦島太郎を時間ループ問題から考える
 時間の隠れ里-M・エリアーデの聖なる時間
 浦島太郎が誤った三つの分岐点
 玉手箱とは何か-文化英雄としての浦島太郎
 竜宮の体験を醸成してクリエイターへ
 『銀河鉄道999』-昭和後期が生んだ浦島譚の名作
 豚に舐められますが好う御座んすか-『夢十夜』の戦慄


第十一講:大先達に学ぶサバイバル法
高等遊民の愉悦と不安――『三四郎』『それから』『一握の砂』ほか 
 黄金の午睡(ゴールデン・スランバー)-二度と還らない学生時代の夢
 明治の浦島太郎、長井代助の愉悦
 『それから』は恋愛小説ではない
 ループしている長井代助の時間
 恋しちゃいけない高等遊民
 代助が誤った三つの分岐点
 『それから』のそれから考-名探偵長井代助のまぼろし
 みんな学校が恋しかった-内海文三から啄木、宮本顕治まで
 代助の劣化した後輩たち-武者小路実篤『友情』、久米正雄『学生時代』
 リアル高等遊民-学校が生んだ雇用ミスマッチ
 そして誰もが代助になった
 杉作J太郎のループする高校時代から『けいおん!』へ

 
第十二講:ループの時代を超えてゆくために
平成ユートピアの囚われ人――『けいおん!』『門』『上海バンスキング』ほか
 近代文学者たち-彼らは分岐点をどう曲がったか
 竜宮城に残る-研究者になるというモラトリアム
 崖の下の宗助-夏目漱石『門』のループする時間
 「螺旋的時間」-「直線的時間」=「円環的時間」
 森鴎外の直線的時間-そこでは学校は通過点にすぎない
 「日常系」-「非日常系」との境界がぼけた平成の現実
 平成~復活する「生活系」-仕事と子育てで甦る「直線的時間」
 もう成長しない日本-生きる指針としての「時間ループ物語」
 自分を国家を人類を彫りだすアート


物語の力を試す-あとがきに代えて


後半で登場し、浅羽さんが再三にわたって応用してみせる、浦島太郎の三つの分岐点は、次のとおり。
1、うまい話を何も疑わず竜宮城へついていってしまった。
2、竜宮城の快楽原則へ溺れながら里心を起こしてしまった。
3、開けてはならない玉手箱をあっさり開けてしまった。
僕ならば、1つめの分岐点は浦島の失敗を繰り返すにちがいないが、2つめ、3つめは大丈夫かな。
なお、この本は、ユーストリーム番組「Salon the Art Room」のブック・レビューのコーナーで紹介させていただいたのだが、なんと、読み終わったのが、番組当日の朝、というギリギリの状態で、うまくご紹介できなかったかと思う。じゃあ、数日あればちゃんと用意できたのか、と言えば、それはまた別の話、ということで。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

日記内を検索