『啓蒙の世紀の神秘思想 サン=マルタンとその時代』
今野喜和人の『啓蒙の世紀の神秘思想 サン=マルタンとその時代』を読んだ。
サン=マルタンは、18世紀、フランス革命期の神秘思想家で、「マルチニスム」(彼の師、マルチネス・ド・パスカリの名からつけられている)がサン=マルタンの名からつけられたもの、つまりサン=マルタンの思想とイコールである、とされる誤解、マルチニスム自体に対する誤解、また、サン=マルタンの思想に名づけられた「イリュミニスム」が、イリュミナティはじめ、別の思想と取り違えられる誤解、さらには、サン=マルタンの思想そのもののわかりにくさなどがあいまって、実態がつかみにくいのだが、本書ではサン=マルタンとは何であったのかを、わかりやすく解き明かそうとしている。
以下、目次。

序 
1.イリュミニスムとエゾテリスムについて
 定義
 エゾテリスムの概略史
 いくつかの関連語彙について
 エゾテリスム研究の現在
 本書の構成
2.人と作品

第1部 啓蒙と反啓蒙のはざまで
第1章 哲学者の敵、神学者の敵―サン=マルタンとルソー
 1.神の敵の敵
 2.ルソーへのまなざし
 むすび
第2章 言語論におけると反―恣意性をめぐって
 1.ピュセイ説対テセイ説
 2.「起源」のアポリア
 3.原初言語の「機械的」形成
 4.サン=マルタンの場合
 むすびにかえて-クール・ド・ジェブランと18世紀
第3章 イリュミニストとイデオローグ―サン=マルタン―ガラ論争
 1.論争の経緯と争点
 2.親ルソー対反ルソー?
 むすび

第2部 神秘思想家のフランス革命
第1章 革命とイリュミニスム
 1.フリーメーソン
 2.カトリーヌ・テオ事件
 3.神の加護
第2章 『革命についての手紙』
 1.市民サン=マルタン
 2.「人類の革命」
 3.宗教戦争
 むすび
第3章 普遍学に向けて―小説『クロコディル』を読む
 1.啓蒙主義
 2.既成教会
 3.オカルティズム
 4.大団円、もしくは普遍学の誕生
第4章 ニコラ・ド・ボヌヴィル-「マルチニストの革命家」
 1.生涯
 2.マルチニスムとの関わり
 3.陰謀テーゼ
 むすび
第5章 ジャック・カゾット-「反革命マルチニスト」
 1.カゾットの革命観
 2.マルチニスムとの関わり
第6章 革命後のサン=マルタン

第3部 ロマン主義と神秘思想
第1章 サン=マルタンとシャトーブリアン
 1.『キリスト教精髄』と『霊的人間の使命』
 2.自然と心情
 3.「誠実な文人」と「幻視の人」
 むすび
第2章 バルザックとサン=マルタン
 1.トゥーレーヌの人
 2.マルチニスムとカトリシスム
 3.バルザック的世界へ
第3章 サン=マルタンにおける人間と自然
 1.自然の沈黙、自然の言(ことば)
 2.〈渇望する人〉の使命
終章 マルチニスムの光芒
 1.フランス
 2.ドイツおよびスラヴ圏
 3.その後の展開
あとがき
参考文献
サン=マルタン関係略年表
人名索引

目次中、言語論における「ピュセイ説」「テセイ説」は、それぞれ、「自然説」「契約説」のこと。

「序」の「本書の構成」から、全体の見取り図を描くと、こうなる。
まず第1部で啓蒙の世紀に啓蒙の本国たるフランスでサン=マルタンがどのような自己認識をもって思想家としての活動を行ったか、主にルソーとの比較を通して明らかにした後、特に言語論における神秘思想の位置付けについて、代表的著作やイデオローグ・ガラとの論争を通じて解明する。
次いで第2部ではフランス革命という、政治上のみならず、思想的に見ても史上類を見ない大変革に向けた、神秘思想家サン=マルタンの特異なまなざしについて、イリュミニスムとの関係を指摘される他の思想家・著作家の立場とも比較して考察し、ともすれば神話的に語られがちな大革命と神秘思想の関係を新たな視点から見直すことも目指す。
第3部では19世紀ロマン主義に与えた彼の影響の本質を、シャトーブリアンとの比較、およびバルザックにおける思想の受容の分析を通じて明らかにする。また、現在の環境問題との関連でサン=マルタンの自然観を見直した時、どのような意義を持ちうるかも論じる。
さらに、フランス・ドイツその他の国々におけるロマン主義、およびそれ以降の思想・文学における「マルチニスム」の影響研究をできる限り網羅的に紹介する補遺的な終章を付け、今後の研究の深化・拡大への基礎とする。

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