『創世の島』

2011年10月4日 読書
『創世の島』
バーナード・ベケットの『創世の島』を読んだ。
本についてたあらすじを書いてしまうと。

時は21世紀末。世界大戦と疫病により人類は死滅した。世界の片隅の島に大富豪プラトンが建設した「共和国」だけを残して。彼は海上に高い隔壁を作り、外の世界からこの国を物理的に隔離することで、疫病の脅威から逃れたのだ。同時に彼は、労働者、戦士、技術者、特権階級である哲学者で構成する社会を築き上げる。唯一生き残ったこの島は、人類の新たなる創世をもたらすと思われた。アダム・フォードという兵士が、漂流者の少女を助けるまでは・・・。

そしていま、ひとりの少女がアカデミーの入学試験として、4時間にわたる口頭試問に挑もうとしていた。彼女の名はアナクシマンドロス。通称アナックス。試験のテーマは「アダム・フォード」。無感情な3人の試験官の前で、彼女は「共和国」建国の経緯や、その社会構造、歴史、AI(人工知性)の問題をつぎつぎに解き明かしてゆく。

この後に続く、驚天動地の云々という惹句は、はっきり言って、言いすぎなので、とりあえずストーリー部分だけ。

全編が、この口頭試問のやりとりと、アナックスが用意した再現映像(ホログラム)と、試験官側が見せる、実際に何が起こったかの映像で構成されている。
口頭試問のやりとりは、まるですべてがFになるの冒頭みたいな緊張感があるし、映像で展開される、「人間と人工知性」の問題は非常にスリリング。
全体を通して、推理小説の謎ときの部分だけで出来上がった作品みたいなものなので、これは興奮して読んだ。

いくつか引用を。
人工知能アートと、人間アダムの会話。
「人工の意識なんてものは存在しない」
「わたしには意識があります」
「おまえには意識なんかない」アダムの目には強い確信の炎が燃えている。「おまえはただの複雑な電気のスイッチの集まりだ。俺が音をだすと、それがおまえのデータバンクに入って、記録されている言葉と照合される。そしておまえのプログラムがオートメ化された反応を選ぶ。だからなんだ?俺が話しかけると、おまえは音をだす。俺が壁を蹴ると、壁は音をだす。どこがちがうんだ?壁にも意識があるとでもいうつもりか?」
「壁に意識があるかどうかは知りません」アートは答えた。「きいてみたらどうですか?」

アダムのうまい主張に、それを切り返すさらにうまいアートの応酬。
しかし、ここでアダムが展開した「おまえは人間じゃなくて機械!」の理屈を見ていると、いわゆるネットの住人や、一般人の世論が人工の部類に近いように思えてならない。

「俺は、賢い金属のかたまりより、愚かな人間のほうがいいね」アダムはいった。
「あなたはよくそういいますね。なぜか金属のほうが劣っているようないいかたをする」
「使い途によるな」
「わたしの目的にはぴったりです」
「だな」

「でもおまえはただの珪素(シリコン)だ」
「あなたはただの炭素です」アートはめげていない。「いつから周期表が差別の基準になったのですか?」
「俺の偏見は正当化できると思うけどね」


人工知能アートの言葉
あなたたちは“思考”をもっていることを自慢します。まるで自分がつくったものであるかのようにね。しかし、“思考”は寄生体なのです。なぜ、進化は物質的なものにだけ起こると考えるのですか?進化は媒体を選びません。どちらが最初なのでしょうか、心ですか、それとも心という“思考”ですか?

「そのちがいは、やっぱり考えてしゃべっているかどうか、意図的に言葉を選んでいるかどうかだ。だから、おまえは俺とはちがうんだ。おまえのよく動くくちびるは、俺の脈打つ心臓とおなじさ。機械だ。ある目的があってつくられてはいるが、意思はない」
アダムの視線をうけとめていたアートの顔に、ゆっくりと笑みがひろがっていった。
「この議論の問題点は」とアートはアダムに語りかけた。「あなたの立場から見ればそう見えるといっているにすぎない、という点です」

「話をもっと単純化したらどうなる?たとえば俺が写真みたいに正確な記憶のもち主で、何千もの完璧なフレーズを暗記しているとしたら?もしそうなら、俺が知らない言葉で話しかけられても、適切なフレーズを選んで返事できる。その場合はどうなんだ?」アダムはふりむいて、答えを待った。
アートはゆっくりとアダムのほうに進んでいった。「わたしはそういう存在だと思っているのですか?よくできたフレーズ帳だと?」
「そう思ったってかまわないだろ?」
「ではなぜ、これまであなたが会った人たちが、みんなそれとおなじ仕組みを使っているとは思わないのですか?」

う~む。考えさせられる~。

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