松本孝の『悪の報酬-黒い報告書-』を読んだ。1964年
週刊新潮掲載の「黒い報告書」シリーズをまとめた3作目だ。
以下、目次。

堕ちる
女の弱点
殺し屋の女
二つの顔
狼と不良少女
悪の魅力
朝子という女
硫酸と青酸加里
社長と愛人たち
ある男の終幕
敗残者
快楽の報酬

「あとがき」にはこう書いてある。
シリーズの目的は「現実の事件に取材し、犯罪に至るまでの人間関係を追うことに主眼が置かれている。従ってここに扱われた題材は全て現実に発生した事件によっている。
そして、こうしめくくる。
今後はしだいに、もっと社会的に幅ひろい題材ともとりくんで行きたいと考えている。

「あいにくと」と評していいのかどうかわからないが、この後、著者は官能小説の書き手になる。社会的に幅ひろい題材が官能に落ち着いたのは、残念である。
いくつかの作品から、世相をあらわす部分や、犯罪の安い哀しみを描いている部分を引用しておこう。
「三本立、八十円」の映画館をでると、街は、もう夜になっていた。伊勢佐木銀座には、色とりどりの人工の光線があふれ、ぞろぞろと、人波がゆきかっている。
(「狼と不良少女」)
章一は、「お泊りお二人様四百円、入浴随意」と、ガラス板に灯のはいった旅館へ、マチ子をつれこんだ。
-横浜の盛り場へでてきて、すでに四度目の夜である。昼は、安い映画かパチンコ、喫茶店のテレビなどで時間をつぶし、夜は場末のホテルに泊る。こうして、少女をひっぱりまわしてアソびだすと、金のあるうちは、家に帰ることなど、念頭からすっとんでしまうらしい。
(「狼と不良少女」)

(街の保護司として、犯罪をおかした少年たちを更生させようと献身してきた中田だったが)
少年たちが、身につけ、ただよわせている、濃厚な「悪の空気」。
その魅力が、いつしか中田弘文を、しっかりととらえ、はなさなくなった。彼は、麻薬のように、それをもとめ、そこにどっぷりとひたっていなければ、生きている気がしなくなっていたのだ。
(「悪の魅力」)
(おれには、金がない。しかし、硫酸がある。青酸カリだってある。やつはおれに、かないはしない。ふふ、ざまあ見ろ!)
(「硫酸と青酸加里」)

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