『「トキワ荘」無頼派 漫画家・森安なおや伝』
伊吹隼人の『「トキワ荘」無頼派 漫画家・森安なおや伝』を読んだ。
以下、目次。
ある無名漫画家の死
岡山から始まった“まんが道”
田河水泡門下をへて独立へ
「新漫画党」結成と学童社の倒産
輝ける青春・「トキワ荘」の時代
貸本漫画衰退、漫画家廃業を決意
夜の世界と流転の日々
トキワ荘解体、ドキュメンタリー番組出演
晩年の生活と『烏城物語』
併載復刻『赤い自転車』森安なおや・作
森安なおや・作品リスト

僕にとって、森安なおやを印象づけたのは、作中にもあるドキュメンタリー番組だったが、その番組の裏話が書いてある。
森安なおやが集英社に原稿を持ち込んで、結局採用されなかったくだりについて。森安なおや本人と交流もあった古書店主、高畠裕幸氏(巻末の作品リストも作成している)による、次のような発言が載せられている。
「あの番組は、NHKが最初から結末を決めてやっていたそうです・・・ジャンプでは最初、採用の方向で動いていて、アシスタントを付ける話もあったらしいんですが、NHKが『結局ダメでした』というオチにするため、『断ってくれ』って頼んだらしくて。あの持ち込みにしても、もしかしたら無理やり行かせたのかもしれませんね」
筆者もいうように、「太平洋戦争と少年飛行兵」のテーマで描いた漫画を『ヤングジャンプ』に持ち込むのは無理がある、と確かに思える。
とは言え、このドキュメンタリー番組なしでは確実に森安なおやは歴史の闇に葬られていたにちがいないので、番組を責める気にはなれない。面白い番組だったしね。
番組までのことは、藤子漫画などでも森安なおやのエピソードが読めるのでわかるが、それから後の人生については、この本を読むまではまったく知らなかった。
ただ、そこに何か面白いエピソードがあるのかと言えば、まあ、無いのである。
本書の眼目は、「併載」された「赤い自転車」にあると言っていいだろう。
そして、本文である「森安なおや伝」は長い解説だと取ればいいようだ。
と、いうのは、まず、森安なおやについて書くことの少なさによるのだろうか、たとえばトキワ荘の他の住人についての記述とか、注釈的な情報が多すぎること。そして、とくに前半、森安なおやの厄介さがエピソードとしてさんざん語られるのだが、そこに森安なおやへの愛が感じられないのである。トキワ荘の面々による森安なおやエピソードや、テレビ番組などでは感じなかった感情だった。まるでどうしようもない森安なおやに対して、筆者は怒りを覚えているんじゃないか、と思えたほどだ。
と、いうわけで、「赤い自転車」である。
「なかよしまんが物語」と銘打たれており、目次は次のとおり。
夕焼け雲
たっちゃんのねがい
黒いまつばづえ
のぼれアドバルーン
みんな笑わないで
こがらしふくな
きえたしゃぼん玉
にじの中の少年
がんばれたっちゃん
赤い自転車

当時の世相がどうだったか偲ばれる面白い作品で、いかにも貸本漫画なテイストがうれしい。でも、この本が出た1956年に、手塚治虫はすでに「火の鳥」も発表しており、「ライオンブックス」のシリーズも描いているのである。手塚治虫の現代性と偉大さが、逆にわかって感心してしまった。

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