『グラン=ギニョル傑作選——ベル・エポックの恐怖演劇』
真野倫平編・訳による『グラン=ギニョル傑作選——ベル・エポックの恐怖演劇』を読んだ。
以下、目次。
序文(アニェス・ピエロン)
『闇の中の接吻』(モーリス・ルヴェル)
『幻覚の実験室』(アンドレ・ド・ロルド/アンリ・ボーシェ)
『悪魔に会った男』(ガストン・ルルー)
『未亡人』(ウジェーヌ・エロ/レオン・アブリク)
『安宿の一夜』(シャルル・メレ)
『責苦の園』(ピエール・シェーヌ)
『怪物を作る男』(マクス・モレー/シャルル・エラン/ポル・デストク)
グラン=ギニョル主要作品紹介
(『あいつだ!』『時計宝石商カリエ』『あいつの仲間』『性的スキャンダル』『グドロン博士とプリュム教授の療法』『午前二時、マルブフ街』『究極の拷問』『灯台守』『仮面舞踏会は中断される』『強迫観念、あるいは二つの力』『白い狂気』『担当外科医』『ル・アーヴルの三人の紳士』『ヴェルディエ教授の手術』『ハンプトン・クラブの夜』『サルペトリエール病院の講義』『精神病院の音楽会』『大いなる死』『恐怖の実験』『閉ざされた扉』『サボタージュ』『二分法』『赤い照明の下で』『盲人作業場』『硫酸をかけられた男』『血まみれのヒバリ、あるいはヒバリ愛好家たち』『美しき連隊』『灼熱の大地』『黒い館の謎』『緩慢な死の館』『大いなる恐怖』『ペール=ラシェーズ墓地のクリスマス・イヴ』『死んだ子供』『アッシャー家の崩壊』『激烈な欲望』『死を前にして』『サド侯爵』『狂気の女たち』『ブロンズ夫人とクリスタル氏』『電話口で』『彼方へ』『安楽死、あるいは殺す義務』『肉体の棺』『通り過ぎる死、あるいは闇の中で』『死女の愛人』『精神病院の犯罪、あるいは悪魔のような女たち』『チェカの赤い夜』『死を殺した男』『裸の男』『墓の中の光(神ハワレラトトモニ)』『血の接吻』『悪徳の人形』『鉤爪』『麻薬』『三つの仮面』『切り裂きジャック』『黒魔術』『夜の叫び声』『悪夢』『死の宝くじ、あるいは肱掛椅子の七つの犯罪』)
解説
書誌

グラン=ギニョル座、あるいはグラン=ギニョル劇について、解説ではこんなふうに書いている。
モンマルトルの丘のふもと、シャプタル通りの路地の奥に一つの劇場があった。礼拝堂を改装して作られた、席数280の小さな劇場である。この劇場の売り物は、残酷で猟奇的な恐怖演劇であった。日が傾くと、人々は身の毛もよだつようなスリルを求めて劇場につめかけた。あまりの恐怖に観客が気絶することもしばしばで、介抱のために専属の医者が雇われたと噂された。
この劇場では、凶悪犯罪や猟奇殺人、サディズム・マゾヒズム、さまざまな性的倒錯といった、一般の劇場とは異なる特殊な題材が好んで取り上げられた。殺人や拷問の場面では、身体切断や血のりなどの特殊効果がふんだんに用いられた。「医学演劇」と呼ばれる一連の作品があり、マッド・ドクターや精神異常者が血の海を繰り広げた。また、中国、インド、アフリカなど異境を舞台にした作品も多く、そこにはしばしば荒唐無稽なエキゾチシズムが認められた。


うわ~、見たい!
上記「グラン=ギニョル主要作品紹介」から、例をあげてあらすじを紹介してみよう。
『赤い照明の下で』三幕のドラマ(モーリス・ルヴェル/エチエンヌ・レー)1911年
(1)フィリップは最愛の恋人を急病で失った。彼は彼女の思い出を保存するため、遺体の写真を撮影する。(2)葬儀から戻ったフィリップが写真を現像すると、彼女が目を開いている画像が浮かび上がる。(3)墓地の事務室。棺が掘り返されるあいだ、法医学者が早すぎた埋葬の例を挙げる。棺が開けられ、もがき苦しみ血まみれになった死体が現れる。

『血まみれのヒバリ、あるいはヒバリ愛好家たち』二幕のドラマ(シャルル・ガラン)1911年
(1)中国。愛鳥家のリーは大切なヒバリを妻に託して商用に旅立つ。留守中に隣人が妻をだましてかごを開けさせ、鳥を逃がす。(2)リーは隣人を家に呼び、鳥が何者かに盗まれたので犯人に復讐すると告げる。彼は妻の両親を立会人に呼ぶと、その目の前で隣人を殺害する。彼はさらに驚く両親に娘の生首を見せ、これは鳥を逃がした罰だと言い放つ。

うわー!
筋立てはとことんわかりやすい。これら多くの作品も次々と翻訳が出ればいいな、と思う。
翻訳された作品のそれぞれのテーマ、モチーフなどを書いておくと。
『闇の中の接吻』
硫酸を顔にかける事件の復讐劇。
かつてはスターに硫酸をかける屈折した女性ファンが日本にもいたけど、さすがに現代ではあまり聞かないなあ。でも、ギャルバンで、人気のある子にメンバーが嫉妬のあまり熱湯かけたり、というようなことは、いまだにあるらしい。こわい!
『幻覚の実験室』
催眠を使った医学演劇。
『悪魔に会った男』
悪魔との契約。ガストン・ルルーがグラン=ギニョルのために書いた唯一の作品。
『未亡人』
「未亡人」とは、ギロチンの異名。うっかりギロチンに首をはめてしまって、はずし方がわからずに右往左往するドタバタ。
『安宿の一夜』
場末の安宿。ブルジョアが下層階級に対して抱く恐怖心を描いているとか。
『責苦の園』
オクターヴ・ミルボーの同名小説に舞台装置を借りている。拷問劇。
『怪物を作る男』
サーカスで見世物用に奇怪な動物を作り、美女を怪物に改造。

これらグラン=ギニョルを読んでて、幼い頃からのワクワク感がよみがえってきた。僕は中高生の頃にディクスン・カーが大好きでよく読んでたのだが、そのときのトキメキが再燃した。
そういえば、カーにも『夜歩く』のもとになった作品で、『グラン=ギニョール』(1929年)と題する小説がある。カーが1927年8月から5ヶ月間パリを中心にヨーロッパに滞在した時期に、グラン=ギニョルを見て、大きな影響を受けたらしい。カーは『夜歩く』の成功後、1930年4月から再びヨーロッパ旅行をしており、ほとんどをパリで過ごしている。その1930年にもカーはグラン=ギニョル劇場で観劇しているそうだ。上演の記録などから、カーが何を見てその創作のヒントにしたのかを想像するのは、きっと面白い作業だろうな、と思った。

なお、本書の編・訳者、真野倫平氏がグラン=ギニョルの紹介と関連資料の展示を行っているサイトがある。
極東グラン=ギニョル研究所
http://www.fides.dti.ne.jp/grandguignol/

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