エラリイ・クイーンの『金色の鷲の秘密』を読んだ。1942年。
以下、目次
1、アルベルト
2、チャンプが屋根裏でみつけたもの
3、なんにもない所に坐った男
4、盗まれた巣留め卵
5、殺人
6、ボートのランプ
7、パタゴニア号
8、がっかりした探偵たち
9、1ポンドの砂
10、チャンプとジュナ穴を掘る
11、ジュナ、アルベルトに教わる
12、鷲の巣

巻末の作品紹介文を書いてみると。

どうもジュナには、ふしぎな事件がついてまわるのではないだろうか。この事件は、ある年の夏、ジュナがストーニーの港町に愛犬チャンプとやって来たとたん始まった。パティおばさんの家に伝わる金色の鷲の卵をめぐる謎を、ジュナとビリーは、みごととくことができるだろうか?

その内容はというと、パティおばさんの家で発見されたステッキの卵型の握りとか、木のかがり台の卵が盗まれ、パティおばさんの船が沖に流され、あちこち破壊されていた。犯人の目的は?

クイーンらしい、というか、ルイス・キャロル的な面白さがあった。
ジュナは、不思議な少年ビリーにあう。
ビリーは犬を飼いたいのに、お金がなくて飼えない。
そこで、空想の犬をつれて歩き、芸を仕込んで遊んだりしていた。
そして、みんなから「間抜け(ボーンヘッド)」と呼ばれているボーネットが、椅子がない場所にすわろうとして、しりもちをつく場面を目撃する。
で、クライマックスでジュナは犯人が残したランプについてこう言う。
「ぼくはね、たまたまあのランプがパタゴニア号の中で燃えつづけていたのを見たんですよ。ほやはすっかりすすけて黒くなっていました。すすけたガラスからは指紋がよくとれることを、御存知でしょう?」
ラストに至って、ジュナはこう言うのだ。

「ビリーは犬を持っていません。でも、彼はアルベルトっていう名前をつけたんです。彼は犬が必要だったからですよ!それで犬を創りあげたんです。ぼくらは指紋が必要だったんです。必要な時には、なんだって出来ると思うんです。アルベルトは出来るんですもの」「それに」と、彼は考え深そうにつけ加えた。「ぼくは間抜けがきっと気づいていないだろうと思ったんです。彼は実際にはない椅子に、腰かけるような男ですからね」

ランプは、ほやの内側がすすけるのであって、外側はすすけない。だから、ランプから指紋がとれた、というわけではない。ジュナは、一般論として「すすけたガラスから指紋がよくとれる」と言っただけで、問題のランプから指紋が検出されたとは一言もいっていないのだ。

さて、こんな屁理屈というか、論理のお遊びが、この作品にはたんまりある。
空想の犬と遊んでいるとき、ビリーはこんな呼びかけにあう。
「どうしたい?犬がいなくなったのかね?」
ビリーはこたえる。
「どういたしまして。犬はいなくなりませんよ」
勿論これはうそじゃなかった。大体はじめっから犬がいないんだからね。

言葉遊びでは、こんなものが。
事件の核心になる言葉「巣留め卵(ネスト・エッグ)」が、「貯金の基金(ネスト・エッグ)」だったことがクライマックスで判明したりする。
犯人によってとらわれの身となったジュナが、暦のはじに書いてある金言の部分を一部切り取って、メッセージを作文するシーンもある。

事件を追及するうえで、ジュナがとった行動は、まるでクイーンの本格をほうふつとさせる。
たとえば、ジュナは図書館の司書に、次の5つの質問を調べてもらう。
1、1795年には財務長官のウォールコット氏は何歳でしたか?
2、合衆国政府によってフィラデルフィアに最初に建てられた建物はなんですか?
3、パタゴニアの南でインディアン達に発見された価値のある砂はどんな種類のものですか?
4、カリフォルニア地方の高山に巣を作る大きな鳥はなんといいますか?
5、巣というのはなんですか?つまり鳥の巣以外の巣のことです。
ふむ。最後の「巣というのはなんですか?」なんて、まるで「すべてはFになる」の「F」というのはなんですか、的な質問だな。
これらの問題に答えを出せば、当時のアメリカの少年たちも事件に肉迫することができたのだろう。

このジュナのシリーズは、エラリイ・クイーン・ジュニアが書いたとされているが、本当は、エラリイ・クイーンが書いたもので、さらに本当は、代作者による作品だった、という入れ子構造も含めて、油断ならない探偵小説だった。

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