『花の遠景』

2010年6月26日 読書
下村明の『花の遠景』を読んだ。1963年。
2つの小説が収録されている。
まず、「花の遠景」
戦争中の悪事を戦後になって復讐される、という物語。
1章 四人の患者
2章 静かな予告
3章 死を招く花
夫婦の浮気調査をするうちに、浮かび上がる罪。
ことは戦時中、特患病室に入院していた4人に端を発する。
軍医で定められた病名は1番(コレラ)、2番(赤痢)、3番(腸チフス)、4番(パラチフス)、5番(発疹チフス)から61番(病名未定)まであり、終わりの方は58番(詐病)、59番(自傷)、60番(自殺)で、特殊患者に分類されるのは、そういう類いである。詐病は仮病のことだが、ほとんどがニセ気違いで、自傷は乱歩の作品でもとりあげられた、前線で戦うのがいやで自らを傷つけて「撃たれた」とか嘘をつくのだ。
当然、こういう特殊患者はいずれは軍法会議の裁きを受ける。
事件のもとは、「どうせ軍法会議にかけられる」と、特殊患者たちが看護婦を犯してしまうところにあった。
1日違いで特殊患者たちは裁かれることもなく 終戦を迎える。
また、もうひとつ、「黒血病」の家系のことが事件に関わってくる。
黒血病がどんな病気かというと。
「黒血病を持つ若い女性は、どれほど厚化粧をしても、宿命的なその肌の色を隠せない。笑った口の中も、水死人の皮膚みたいな、くろずんだ色をしているのだ。その悲しみに耐えかねて自殺した少女の肌には、信じられぬほど鮮やかな、緑色の綺麗な死斑がみとめられた。固く閉じたその唇の隅からは、醤油のような、うすぐろい血が流れていた」
「血が黒いだけで、他には異常はない」
のであるが、女性は黒血の系統を絶ちたいために、結婚もできず、必ず避妊してこどもを作らないようにするのである。
さて。
黒血病の血筋を受け継ぐ女性は、村を飛び出し、転落して池袋で街娼をしたあげく、麻薬で頭がおかしくなって死んでしまった。
特殊患者たちに犯されて殺された看護婦の妹は、復讐のために、黒血病の転落して死んだ女性の名前をもらい、その女性として暮らし、特殊患者たちを追いつめたのである。

「消された記憶」
言った覚えのないバーのマッチがポケットに入っていた。
そのバーに行ってみると、たしかに自分がこの店に来ていた、とバーテンダーは言う。
その他、日常生活で、記憶がぽろぽろ抜け落ちていることがだんだんわかってくる。
幻覚まで見るようになってきた。
さて。
これはもう言うまでもなく、彼を神経衰弱だと思わせて、挙げ句の果てには自殺の理由にまで仕立てようとした工作だったのである。
最後の最後に真相に気づくが、それは列車から突き落とされる寸前のことだった。
彼はあえなく列車から落ちてしまうが、殺人者の衣服のボタンを1個握りしめていた。


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