『ある詩人への挽歌』
2010年1月2日 読書マイクル・イネスの『ある詩人への挽歌』を読んだ。
以下、ネタバレしかしていないので、要注意。
大傑作なので、古本屋とか友人、図書館などをあたって、とにかく読まれることをお薦めします。
目次
第1部 イーワン・ベルの記述
第2部 ノエルギルビーの手紙記録
第3部 アルジョー・ウェダーバーンの調査
第4部 ジョン・アプルビイ
第5部 医師の遺言
第6部 ジョン・アプルビイ
第7部 イーワン・ベルによる結末
以上の目次にみられるように、事件の語り手がリレー形式でバトンタッチしていく構成がうまい。
事件は、結婚を反対された男(ニール・リンゼイ)が恋人(クリスティン・メイザース)の後見人(ラナルド・ガスリー)を殺してしまう、という一見わかりやすい犯罪にみえる。
ところが、真相は二重三重の底をさらけだしていく。
本書はところどころで、複雑な事件をわかりやすくまとめてくれている。たとえば。
(第1部)
ガスリーの過去何か月かの行動は、単にクリスティンとニール・リンゼイの件以外にも、理由があるのではないか。ギャムリー一家(農場管理人)を去らせたこと、エディンバラにいろいろ注文していること、城を開けた時と回廊で、アイザ・マードック(小間使い)が見たりきいたりしたことすべて、こういったことはクリスティンに求婚しているのが誰かガスリーが発見する以前のことだし、それをいえば、求婚されていることさえ知らなかった頃のことだ。それからガスリーが熟読しているとういう医学書がある。それから、小さな木片でできているパズルになぐさめを求めているということもある。それから長いこと見捨てられていた回廊の扉を怒りにまかせて打ち破ったこと、回廊での徘徊、アイザがのぞいているとも知らず、立ちつくして、カイリー湖を眺めていたこと。まるで死の危険に立ち向かうかの如くきびしいクリスティンの「叔父さまは狂っている」という声音が、耳についてはなれなかった。こういった事柄をつなぐパターンがあるはずだ
長い引用になったが、後で読み返してみると、伏線がバンバンはってあることに気づく。
(第2部)
ガスリー嬢と僕は、何の予告もなしに、月曜の夜遅く事故に遭って、エルカニーに到着した。ハードキャッスル(差配人)がこっそりと医者を待ち受けていた。僕たちは礼儀正しくガスリーに迎えられ、招じ入れられたところは常習的けちの家だったが、夕食には奇妙に高価なものが出された。この家の構成人員は注目に価する。変則的雑役人ハードキャッスルは、驚くべき悪党、その妻は小心、下働きは頭がおかしい、そして城主自身は力強く頭がよく、ひどく気が狂っている
事件の真相が明らかになるにつれ、兄弟の因縁とか、血の悲劇とか、書きようによっては横溝作品になりそうな、ベタな事実があばかれるのも面白い。
本筋とは関係ないが、ラナルド・ガスリー城主は凶眼の持ち主で、その凶眼を退治する方法を、言い伝えとして書いている部分がある。
「ジャービー牧師か、あるいはマーヴィーとダンウィニーの牧師たちが相談して、その内一人は必ず起きて目を覚ましているべきなのだそうだ」
牧師が眠るとき凶眼がめざめる、という考えか!
あと、墜落死についての分析で面白い記述があった。
「ある人が高い所から身を投げるということは、上という危険と同意語の場所から、下という安全に移りたいという願いの象徴なのだ」
なお、本書は原題が「Lament for a Maker」になっていて、「へー、Makerって詩人のことなんだ」と思っていたが、これは作中に何度もあらわれるウィリアム・ダンバーの詩集『Lament of the Makaris』に由来しているらしい。Makarisはスコットランド語で詩人の意味。
マイクル・イネスのミステリーはまだ未訳のものが多い。これからが楽しみだ。
以下、ネタバレしかしていないので、要注意。
大傑作なので、古本屋とか友人、図書館などをあたって、とにかく読まれることをお薦めします。
目次
第1部 イーワン・ベルの記述
第2部 ノエルギルビーの手紙記録
第3部 アルジョー・ウェダーバーンの調査
第4部 ジョン・アプルビイ
第5部 医師の遺言
第6部 ジョン・アプルビイ
第7部 イーワン・ベルによる結末
以上の目次にみられるように、事件の語り手がリレー形式でバトンタッチしていく構成がうまい。
事件は、結婚を反対された男(ニール・リンゼイ)が恋人(クリスティン・メイザース)の後見人(ラナルド・ガスリー)を殺してしまう、という一見わかりやすい犯罪にみえる。
ところが、真相は二重三重の底をさらけだしていく。
本書はところどころで、複雑な事件をわかりやすくまとめてくれている。たとえば。
(第1部)
ガスリーの過去何か月かの行動は、単にクリスティンとニール・リンゼイの件以外にも、理由があるのではないか。ギャムリー一家(農場管理人)を去らせたこと、エディンバラにいろいろ注文していること、城を開けた時と回廊で、アイザ・マードック(小間使い)が見たりきいたりしたことすべて、こういったことはクリスティンに求婚しているのが誰かガスリーが発見する以前のことだし、それをいえば、求婚されていることさえ知らなかった頃のことだ。それからガスリーが熟読しているとういう医学書がある。それから、小さな木片でできているパズルになぐさめを求めているということもある。それから長いこと見捨てられていた回廊の扉を怒りにまかせて打ち破ったこと、回廊での徘徊、アイザがのぞいているとも知らず、立ちつくして、カイリー湖を眺めていたこと。まるで死の危険に立ち向かうかの如くきびしいクリスティンの「叔父さまは狂っている」という声音が、耳についてはなれなかった。こういった事柄をつなぐパターンがあるはずだ
長い引用になったが、後で読み返してみると、伏線がバンバンはってあることに気づく。
(第2部)
ガスリー嬢と僕は、何の予告もなしに、月曜の夜遅く事故に遭って、エルカニーに到着した。ハードキャッスル(差配人)がこっそりと医者を待ち受けていた。僕たちは礼儀正しくガスリーに迎えられ、招じ入れられたところは常習的けちの家だったが、夕食には奇妙に高価なものが出された。この家の構成人員は注目に価する。変則的雑役人ハードキャッスルは、驚くべき悪党、その妻は小心、下働きは頭がおかしい、そして城主自身は力強く頭がよく、ひどく気が狂っている
事件の真相が明らかになるにつれ、兄弟の因縁とか、血の悲劇とか、書きようによっては横溝作品になりそうな、ベタな事実があばかれるのも面白い。
本筋とは関係ないが、ラナルド・ガスリー城主は凶眼の持ち主で、その凶眼を退治する方法を、言い伝えとして書いている部分がある。
「ジャービー牧師か、あるいはマーヴィーとダンウィニーの牧師たちが相談して、その内一人は必ず起きて目を覚ましているべきなのだそうだ」
牧師が眠るとき凶眼がめざめる、という考えか!
あと、墜落死についての分析で面白い記述があった。
「ある人が高い所から身を投げるということは、上という危険と同意語の場所から、下という安全に移りたいという願いの象徴なのだ」
なお、本書は原題が「Lament for a Maker」になっていて、「へー、Makerって詩人のことなんだ」と思っていたが、これは作中に何度もあらわれるウィリアム・ダンバーの詩集『Lament of the Makaris』に由来しているらしい。Makarisはスコットランド語で詩人の意味。
マイクル・イネスのミステリーはまだ未訳のものが多い。これからが楽しみだ。
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