「マドモアゼル・ボードレール」の異名をとるデカダンの女王、ラシルドの『ヴィーナス氏』を読んだ。
男女のちょっと激しいラブストーリー。女性が男になり、ひよわな男(「オカマ」と揶揄される)を飼いならしてスポイルしまくり、男女逆転の愛慾絵巻。変装して男になりすまして愛人に会いにいく女主人公ラウール。あげくのはてには、男としての基本的な作法を身につけていなかったがゆえに、男主人公ジャックは死なないですむ決闘で死んでしまう。ラウールは悲しんで、ジャックに似せた機械人形を作って、愛慾をぶつける。現代だとわりとあるような話だが、19世紀にはきわめて背徳的な書物だったろう。
こうした愛の形を人に説明する際の文章から引用してみよう。
「ラウールの蒼白い顔が赤く燃え上がった。『わたしが男になって恋している相手は、女でなく男です』」
「『彼女は、男になって、お、お、男に恋をしている!』と、彼(レトルブ男爵)は叫んだ。『ああ、神よ、われを憐れみたまえ。頭がばらばらになりそうだ』」
「『そんな男が世の中にいるだろうか?』あべこべが唯一の法であるような未知の世界に」引き入れられ、茫然自失した男爵は呟いた。
『いるのです。それは、両性具有でもなければ不能者でもなく、21歳の美しい雄です。女の本能をもった魂が、入る場所をまちがえたのです』」
ラウールはジャック(呼び名は「ジャジャ」)をとじこめて独占するために、麻薬を与えて、ぼーっと何もできないような心身においやる。
そして、こんな激しい言葉を吐く。
レトルブ「もし、時には麻薬だけで充分でなかったら?」
ラウール「殺すわ」
この男女逆転の仲に、二人の人物が関わってくる。
1人はジャックの姉、マリー。マリーは元娼婦で、ジャックに執心するラウールにダニのようにとりついて、金をせびりとろうとする。(煽りたてた卑劣さの悪魔)
もう1人は信心深いラウールの伯母、エリザベート。二人の仲を自然に反した欲望で、幸福にはなれないと糾弾する。(天使エリザベート)
ラウールはおかたい伯母に対して、こう言い放つ。
「伯母さま、幸福というものは、常軌を逸していればいるほど本物なのよ」
物語は今でいえばまるで昼の(常軌を逸した)メロドラマに似ており、きわめて女性受けするストーリーだな、と感じた。この本の前に読んだ『眠る男』がほとんど何も起こらない小説(作者側から言えば、手をかえ品をかえて何も起こさせない小説)だったのに対して、これは激情にかられていろいろしてしまう小説だったのが対照的で、ジェットコースターノベルかと思うくらいにすらすらと読めた。2世紀前のポルノグラフィーとして劣情を刺激する面もあったのかもしれない。
男女のちょっと激しいラブストーリー。女性が男になり、ひよわな男(「オカマ」と揶揄される)を飼いならしてスポイルしまくり、男女逆転の愛慾絵巻。変装して男になりすまして愛人に会いにいく女主人公ラウール。あげくのはてには、男としての基本的な作法を身につけていなかったがゆえに、男主人公ジャックは死なないですむ決闘で死んでしまう。ラウールは悲しんで、ジャックに似せた機械人形を作って、愛慾をぶつける。現代だとわりとあるような話だが、19世紀にはきわめて背徳的な書物だったろう。
こうした愛の形を人に説明する際の文章から引用してみよう。
「ラウールの蒼白い顔が赤く燃え上がった。『わたしが男になって恋している相手は、女でなく男です』」
「『彼女は、男になって、お、お、男に恋をしている!』と、彼(レトルブ男爵)は叫んだ。『ああ、神よ、われを憐れみたまえ。頭がばらばらになりそうだ』」
「『そんな男が世の中にいるだろうか?』あべこべが唯一の法であるような未知の世界に」引き入れられ、茫然自失した男爵は呟いた。
『いるのです。それは、両性具有でもなければ不能者でもなく、21歳の美しい雄です。女の本能をもった魂が、入る場所をまちがえたのです』」
ラウールはジャック(呼び名は「ジャジャ」)をとじこめて独占するために、麻薬を与えて、ぼーっと何もできないような心身においやる。
そして、こんな激しい言葉を吐く。
レトルブ「もし、時には麻薬だけで充分でなかったら?」
ラウール「殺すわ」
この男女逆転の仲に、二人の人物が関わってくる。
1人はジャックの姉、マリー。マリーは元娼婦で、ジャックに執心するラウールにダニのようにとりついて、金をせびりとろうとする。(煽りたてた卑劣さの悪魔)
もう1人は信心深いラウールの伯母、エリザベート。二人の仲を自然に反した欲望で、幸福にはなれないと糾弾する。(天使エリザベート)
ラウールはおかたい伯母に対して、こう言い放つ。
「伯母さま、幸福というものは、常軌を逸していればいるほど本物なのよ」
物語は今でいえばまるで昼の(常軌を逸した)メロドラマに似ており、きわめて女性受けするストーリーだな、と感じた。この本の前に読んだ『眠る男』がほとんど何も起こらない小説(作者側から言えば、手をかえ品をかえて何も起こさせない小説)だったのに対して、これは激情にかられていろいろしてしまう小説だったのが対照的で、ジェットコースターノベルかと思うくらいにすらすらと読めた。2世紀前のポルノグラフィーとして劣情を刺激する面もあったのかもしれない。
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