中井英夫の連作長編『人形たちの夜』を読んだ。
以下目次
1「春」
異形の列
真夜中の鶏
跛行
2「夏」
夢のパトロール
海辺の朝食
水妖(オンディーヌ)
3「秋」
笑う座敷ぼっこ
三途川を渡って
影人
4「冬」
憎悪の美酒
歪む木偶
貴腐(プリチュール・ノーブル)

あとがきによると、「1はプロローグと母娘二代の業を、2は反対に明るい夏の若い男女の愛と性を、3は推理小説めかして暗号解読を、4では”兄”の立場からする憎悪の哲学を語ってエピローグとした」とある。
おおむねその通りだが、今回久しぶりに中井英夫を読み返してみて、30年前の読後感とは違い、かなり女性っぽい印象を受けた。これは何なんだろう。
「跛行」の動機が面白い。
「これまでつき合った男は例外なく不具で、かりに健康だったとしてもわたくしと一緒になるが早いか片輪にならずにいない」と思いこむ女。非のうちどころのない男と結ばれた彼女は、「二度と夫を兵隊にとられぬようその脚に傷をつけ、戦争中の軍国主義者たちとは違った純粋な不具の男を傍らにおきたかった」
連作のため、1つ1つの短編で解決したはずの物語が、実は裏の真相があったのだ、と判明するのがたまらなく面白い。
「貴腐」では「人工の憎悪」という言葉が出てくる。
憎しみの足りなかったために相手を死なせてしまった人物が、「憎み得ないものを憎むことも私には必要だった」と打ち明ける。
なるほど、こういう感情は人生経験のない学生時代に読んでいてもピンと来なかったんだな、と知れる。

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