ISBN:4062879018 新書 小野 俊太郎 講談社 2007/07/19 ¥798
小野俊太郎の『モスラの精神史』を読んだ。
もう1回モスラ見たくてたまらなくなる、面白い本。
以下目次と、各章の説明あるいは引用。

プロローグ−モスラの飛んだ日
 ?961年7月30日、モスラは飛んだ。本書はモスラの謎を解き明かす書である。

第1章 三人の原作者たち
 モスラの原作を書いたのは、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛という三人の文学者だった。映画のテーマを弱小民族の問題にとり、自然主義リアリズムを脱け出すために三人は怪獣映画の原作に関わる。コクトーの影響もあった。
三人は、モチーフの分担を中村が「変形譚」、福永が「ロマンス」、堀田が「ヒューマニズム」として執筆した。

第2章 モスラはなぜ蛾なのか
 モスラは養蚕と深い関係をもっている。
カイコガ、養蚕は「日本」「女性(母性)」と結びついている。「モスラ」の物語は冷戦下のアメリカとの複雑な対立関係を含んでおり、日本的なモスラはぴったりなのだ。

第3章 主人公はいったい誰か
 原作の主人公は言語学者で、インファント島の言語を解読する。そして、新聞記者と協力して、アカデミズムとジャーナリズムの連携でことをおさめようとする。
一方、映画の主人公はわかりやすく、活動的な新聞記者に設定された。

第4章 インファント島と南方幻想
 「『インファント島』は、時には水爆の実験で汚染されて放射能遮断服なしには訪問不能な島、また、時には『そっとしておいてやりたい』、守りたいユートピアの島である。この2つのイメージのあいだにインファント島は揺れている。これは、そのまま日本が内部に抱えた不安や願望を投影しているともいえる」

第5章 モスラ神話と安保条約
 モスラは発光妖精の小美人を救出するために、インファント島からやってくる。一方、小美人を連れ出したネルソンは外交特権を悪用して、治外法権的扱いを受ける。
「非常事態にいったい誰が誰を守るのかをめぐって、『モスラ神話』と『日米安保体制』がもつ価値観がぶつかる」

第6章 見世物にされた小美人と悪徳興行師
 弱小民族の怒りのテーマ。
「この映画は、小美人の公演を導入してレビューの雰囲気を伝えるとともに、そもそも映画自体が関与している『興行』というしかけそのものを二重写しにする」
 興行、東宝(東京宝塚)ならではのレビューシーン、舞台で見せる演目としての映画、ネルソンを演じた日米ハーフのジェリー伊藤。

第7章 『モスラ』とインドネシア
 モスラの歌はインドネシア語だ。
「この歌は、カロリン諸島から、スマトラ沖までの広い地政学的な幻想をまとめ、しかも、日本文化の基底層にある神話から軍政支配までの歴史を圧縮しているのだ」

第8章 小河内ダムから出現したわけ
 モスラは内陸のダムからあらわれる。そして、明治神宮や皇居をたくみに避けながら、東京タワーをめざす。
「モスラは最終的には空を飛ぶのだから、一種の大きな飛行機ともいえよう。空から攻撃する怪獣とは爆撃機にほかならない。そして、幼虫モスラによる小河内ダムから東京タワーへの突進は、成虫となって飛ぶための滑走となった、いわばカタパルト発進の発射台として東京タワーが必要だったのである」

第9章 国会議事堂か、東京タワーか
 原作ではモスラは国会議事堂に繭をつくる。原作者には、安保条約によってアメリカ軍に出動を要請し、安保反対の群集が取り囲み、国連ではソ連が日米安保の発動に拒否権を申し出る、など、政治的展開まで考えられていた。
東京タワーにかわった理由は3つ。1、当時、もっとも高い建物だった。2、塔のもつ宗教的、呪術的誘蛾灯の意味。3、映画をおびやかすテレビ塔だったこと。(この映画ではほとんどテレビを見るシーンが出て来ない)

第10章 同盟国を襲うモスラ
 モスラは「ロシリカ国」(ロシア+アメリカ。映画ではロリシカ)にネルソンを追って飛ぶ。これは日米合作映画のため、コロムビア映画の要求で、アメリカの観客のためにアメリカにモスラを飛来させたのだ。

第11章 平和主義と大阪万博
 続編以降、モスラは平和主義のシンボルになる。
田中友幸プロデューサーは大阪万博で三菱未来館のイベントプロデューサーとして活躍。
太陽の塔内部の生命の樹に展示されていた造形物は、円谷プロが作った。
モスラは大阪万博のリハーサルのひとつだったのではないか。

第12章  後継者としての王蟲
 ナウシカに引き継がれるモチーフ。
原作者堀田善衛が大きく影響を与えた宮崎駿との関係。

エピローグ−「もうひとつの主題歌」
 同時上映「アワモリ君売出す」の主題歌は坂本九の「上を向いて歩こう」だった。
「1961年8月という鎮魂の時期に、大平洋戦争を始めて20年を迎えようとした節目に登場した二つの作品が、それぞれのジャンルで日本を越えてアメリカを中心とした世界に届く作品となったわけだ」

以上。後半に行くにしたがって展開される牽強付会の方が興味をひいた。知識や情報よりも、着想に興奮してしまう僕の癖だ。

フィリップダン監督の「目かくし」を見た。1965年
ロック・ハドソン演ずる精神科医は、国家安全保障局の「将軍」に目かくしで「X基地」に連れてこられる。天才科学者の心の病を治療するためにだ。
クラウディア・カルディナーレは科学者の妹。兄が拉致監禁されていると思って、ロック・ハドソンに接近する。
そんなとき、CIAの局員と名乗る男が、「将軍」はくわせものだ、と情報をくれる。
いったい誰を信じればいいのだ?
映画のみどころは、目かくしされて連れていかれたX基地を潜在意識と推理によって特定していくところ。
大勢の人がパーティで笑い声をたてている、と思っていたのが、実は渡り鳥の雁の声だったとわかるところは感心した。マネキン人形に化けて検問を突破するシーンは、いかにもで笑える。
音楽はラロ・シフリン。すぐに「ラロ・シフリンだ!」とわかる音楽

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