ISBN:4846004872 単行本 種村 季弘 論創社 ¥2,100
種村季弘の『楽しき没落』を読んだ。
サブタイトルに「種村季弘の綺想の映画館」とあるとおり、自選の映画エッセイ集。
以下、目次と、主にとりあげられている監督や作品など。

1(海外映画)
楽しき没落(ビリー・ワイルダー「お熱い夜をあなたに」)
物質の喜劇からの逃亡(ジョン・フランケンハイマー「影なき狙撃者」「大列車作戦」)
管理社会のなかの永久革命者(ロマン・ポランスキー「水の中のナイフ」)
映像死滅理論の魔笛奏者(フェデリコ・フェリーニ「81/2」)
仮面劇の復活(トニー・リチャードソン「ラヴド・ワン」)
終わりのない夜に旅立ったふたり(イングマル・ベルイマン「第七の封印」「沈黙」ロジェ・ヴァディム「血とバラ」)
キング・コングの図像学(メリアン・C・クーパー&アーネスト・B・シェードザック「キング・コング」)
魔女変身(ブルネロ・ロンディ「悪魔つき」)
スキャンダリストの栄光(ルイス・ブニュエル「昼顔」)
子供部屋のブニュエル(ルイス・ブニュエル「自由の幻想」)
運命の輪 格子の牢獄(ルイス・ブニュエル「ビリディアナ」)
ある双斧伝説(ダニエル・シュミット「デ・ジャ・ヴュ」)
ベラスケスの構図を見た(ビクトル・エリセ「マルメロの陽光」)

2(日本映画)
死にそこないの美学(鈴木清順「陽炎座」)
鏡が死児を育てる(吉田喜重「情炎」)
天邪鬼精神の健在(若松孝二「犯された白衣」「腹貸し女」)
アンチ・エロティカーの世界(三隅研次、イングマル・ベルイマン「野いちご」)
大衆映画は旧態を墨守せよ(五社英雄「丹下左膳 飛燕居合い斬り」)
怪奇映画の早すぎた埋葬(中川信夫「東海道四谷怪談」)

3(インタビュー)
綺想の映画館

単行本未収録のエッセイと、『怪物のユートピア』『夢の覗き箱』『死にそこないの美学』収録のエッセイを集めてあるが、すべてに加筆修正がなされている。
30年以上前のエッセイもあり、その文章は60年代、あるいは70年代の空気を反映し、著者自身の若さもあって、アグレッシブなものを感じる。
この本には、映画を見に行くことは、視覚と聴覚の楽しみだけでなく、映画館の雰囲気やら、そこにたどりつくまでの行程や、嗅覚、触覚などいろんな体験をすることだ、というようなことが書かれている。種村季弘の時代では、座席にナンキンムシがいて、坐ると痛いことも含めて、映画の体験だったのだ。
思えば、アングラ演劇を見に行ったり、ニューウェイヴのライブを見に行くときは、単なる観客でいるわけにはいかず、客も一緒になってその場を成立させていたように記憶している。
最近、自分が観客に徹していることが多く、これは時代のせいなのか、老いのせいなのか、と考えてみると、ちょっと寂しい。

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