ドナルド・リチーの『イメージ・ファクトリー』を読んだ。
存分に茶化しの入った日本文化論。
以下、各章ごとの面白スポット。

1.イメージ産業
日本でイメージ産業が特異な成功を収めていることについて書かれている。
ロバート・マクニールのアメリカ文化論を援用して、TVと漫画について、こう語る。
「咀嚼のし易さこそが最も重要なのであり、複雑さは忌避すべきもので、微細なニュアンスは重要ではなく、洗練は単純なメッセージを妨げ、視覚的刺激が思考の代替物となり、言葉の厳密さなどはアナクロニズムとなる」
「TVは懐柔的雰囲気を好み、如何なるものであれ内容を和らげることを得意とする」
この引用部分は、まあ、そうかな、と思わせるものだが、リチーがそれに続ける文章が、ひとを喰っている。
「これはまた、日本においてTVが速やかに受け入れられ、かつそれに依存するようになったもうひとつの理由であろう。日本は懐柔を国是としているような国だからである」

2.ファッションの言語
この章では輸入ファッションに対する日本人の文盲ぶりがこれでもかと述べられる。
たとえば、ジーンズは本来ラディカルで革命的なメッセージをもつものだった。(われわれは着飾ることをしない、エリート主義打倒、文明打倒など)
それが日本に入ると社会的宥和のメッセージに変わる。(われわれは体制に従う、われわれは波風を立てたりしない、など)
日本人が西洋のファッションを誤解して身に纏い、同時にそれにまったく満足せずにすぐに飽きてしまう現状を紹介したうえで、リチーはこう言う。
「日本人が完全に慣れ親しみ、自然に着ることができるようになった唯一の洋服は、制服である」
そして、こう結論づける。
「日本人が洋服を着て本当に寛ぐことができるのは、それが何らかの意味で制服的である場合だけなのだ」
強制と検閲を受けたとしても、自分が定義されることを望むのである。

3.カワイイ−愛らしさの王国
可愛らしさの氾濫について書かれる。
愚鈍で無害で、没コミュニケーションで子供っぽい日本人が描かれる。
サンリオがかつてこんなレポートを出しているそうだ。
「日本で5歳から既婚女性にまで売れている商品は、アメリカなら4歳から7歳までの幼女にしか売れないだろう」

4.セックス・バザール
日本の性産業が他国に比較して効率的な商売として成立していることが語られる。
セックス産業の25%がラブホテル(セックスする場所の提供)で占められている日本独自の傾向も明らかになる。

5.娯楽の選択肢
日本では負の時間とされていた非労働時間をいかに使うかに苦心する日本人。
休みにかえって疲労を蓄積させてしまう日本人特有の現象が語られる。
その原因として、休日をいかに消費するかを自分で決断せねばならない消耗的課題としてとらえているせいだと言ってる。

6.マンガ・カルチュア
漫画人気の背後にある文盲性をつく。
日本人の識字率は高いというが、その基準はきわめて低く、高校を出た者でもたった数千字の漢字しか読めず、三島由紀夫の本などには歯が立たない、と。

7.パチンコ
戦後、日本は多くの点で目覚ましく発展したが、例外があった。
人々の存立の基盤にあった確かなものが失われ、戦後世界はそれの代替物を用意できなかったのだ。
かくして、19世紀の最悪の工場を想起させる騒音と空気の悪さと人間どうしのコミュニケーションのないパチンコ店に人々は集まり、原色の曼陀羅(パチンコ台)に相対して宗教的儀式めいた機械的労働で時間をつぶすのだ。
また、パチンコ店のオーナーが通常朝鮮人であり、「パチンコは日本人による長期的かつ悲惨な朝鮮半島支配に対する復讐であるとも言われる」なんて、まことしやかに書いているのが、これまた人を喰っている。

8.ケータイ電話
「ケータイを使う人を見よ。あるいはそれは逆で、ケータイが彼を使っているのだろうか。人は常にその機械に話しかけているか、あるいはそれを見つめているか、注意深く調べている−メールが来たかどうか、そして、自分たちが、個性的でありつつ、孤独ではないことを確認している」
「寸暇を見ては、ポケットや鞄から電話を出す。奇妙なほど真剣な表情で。これは単なるコミュニケーションの機械ではない。それは導師(グル)であり、高次の権威なのである」

9.コスプレ
「服装によって個人が規定される日本では、他人になることがコスプレの最大の魅力である」

10.ニセ外人
日本人離れをめざし、ミニ導師を見つけてバービー化し、ニセ外人としてアイデンティティを求める日本人。

原書が2003年に発表されているため、厚底靴だのカリスマ店員などの懐かしい言葉も出てくるが、たかが3年でこれらの風俗が懐かしく思えてしまう、ファッションの飽きられ方の早さも実感できた。
ドナルド・リチーは、この本が出たとき79才。日本の若者を面白がって観察している様子が手に取るようにわかる、なんだかほのぼのとした1冊だった。

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