ブラックロッド3部作
古橋秀之のケイオス・ヘキサのシリーズ3冊を読んだ。面白い!ネタバレしかしていないので、要注意。
まず『ブラックロッド』
舞台は積層都市ケイオス・ヘキサ。その層によってカーストが設定されている。
その最下層市街の雑踏には、こんな者たちが蠢いている。
全身に真皮層写経(ダーマスートラ)を施し、念仏を唸りながら歩く少年僧侶(ボーズキッズ)の一団。重格闘用に成型された力士(スモウレスラー)たち。人形嗜好者を当て込んだ外骨格娼婦(ヴァンプ・ドール)。そこここにうずくまり、街路の地下に埋設された霊走路(ケーブル)から漏れ出す霊気をすする地縛霊。
黒杖特捜官(ブラックロッド)と呼ばれる男たちは、公安局の魔導特捜官で、黒革のコートに黒いブーツ。黒い制帽の正面には眼をかたどった徽章。その瞳に埋め込まれた、青く光を放つ擬似水晶体。魔術士の象徴『第三の眼』、霊視眼(グラムサイト)。魔導特捜は達人級以上の位階の魔術士によって構成される。右手には巨大な黒い呪力増幅杖(ブースターロッド)
対する敵はゼン・ランドー。彼の正体は、旧日本帝国軍が用いた戦術級蠱毒「伝屍兵」。奇門に精通し、怨霊を無限に取り込んだ影男。ランドーはケイオス・ヘキサの基礎部分に封じ込められた人柱を解放、吸収し、都市に壊滅的な打撃を与えて、奈落堕ち(フォールダウン)させようとしている。
この対決に絡むのが、降魔局・妖術技官(ウィッチクラフト・オフィサー)の少女、ヴァージニア9。彼女は魔女の分身。
そして、私立探偵ビリー・ロン。彼もただものではない。吸血鬼なのだ。
この世界はオカルトに支配されているが、当局のオカルトが西洋中心なために、ランドーが用いる東洋オカルトに翻弄されてしまう。
ランドーは目的を達成するため、ブラックロッドに乗り移るが、それが運のつき。
のりうつった瞬間、得体のしれなかったランドーの属性がブラックロッドに固定されてしまったのだ。
魔術対決みたいな話で、帝都物語のライトノベル版かと思わせる。
愉快なのは、ルビのついた漢字の用語の数々で、呪装戦術隊(SEAT)とか、機甲折伏隊(ガンボーズ)、装甲倍力袈裟(パワード・カシャーヤ)、呪弾(ブリット)、自在護符(ヴァリアブル・タリズマン)、共感効果(フレイザーエフェクト)、身体施呪(フィジカル・エンチャント)、呪式発声(ハードヴォイス)などなど。
こういう言葉使いが読みにくいのかというと、さすがライトノベル、読みやすさは抜群。多くの造語も、ゲ−ムの際に覚える呪文程度の難易度で、らくらくクリアできる。
読後感は、ゲーム。

2作目の『ブラッドジャケット』は、吸血鬼ビリー・ロンの『ブラックロッド』以前のお話。
吸血鬼殲滅部隊(ブラッドジャケット)の隊長、アービング・ナイトウォーカーは、吸血鬼ロングファングでもあり、探偵ビリー・ロンでもあったのだ。
吸血鬼退治のヘルシング、巨大十字架を武器にする殺人神父など、登場人物も面白い。
この作品は一応ハードボイルド的なまとまりがあり、前作のような混沌を力でねじふせようとする狂熱はない。そのぶん、読みやすいが、ひっかかるところのない、普通の小説になってしまっている。
もっとも、この作品でのみどころは、吸血鬼の治癒再生能力の凄さから来るアクションの面白さだ。こういう感じは平井和正と山田風太郎ではじめて味わったが、ケタ違いだ。心臓以外全部バラバラのグチャグチャでも、数秒後には元に戻っている。
こりゃすごい!

完結編『ブライトライツ・ホーリーランド』は最高傑作。
冒頭から超駑級の戦闘シーンが展開する。
装軌式の大蓮華座に結跏趺坐する巨大仏「毘盧遮那」は、機甲折伏隊の本尊たる重機動如来。
一方、異教の論理によって人格化した嵐の魔神「百手巨人」は、上半身に大小何十対もの腕を生やし、暴風と雷光をまとい、荒れ狂う竜巻きのエネルギーをその身に凝縮している。
この格闘は、殴ったり蹴ったりしているけど、ダメージは論理によって与えられている。
見た目は喧嘩だけど、実際には大論争なのだ。
この闘いによって、機甲折伏隊は全滅する。
これにより、当局はプロジェクト・トリニティを発動、禍福の縄であり輪廻の蛇であり神の爆薬であるアザナエルが投入される。
本作での悪役はスレイマン。彼は嗤う悪霊、スペルジャグラー、踊る死人占い師、殺戮の狂詩人、馳せる疫病、怒れるジョーカー、悪意のアヴァタールなのだ。一言でいえば、トリックスター。
スレイマンは、狂った魔女ヴァージニアサーティーンによって甦る。ヴァージニアサーティーンは関節人形だ。
本作でのオカルト対決は圧巻で、特に、ヴァージニア(魔女)のオリジナルとスレイマンの対決には感激した。一方が相手を簡単に葬ったかと思いきや、大逆転があったりする。
悪の権化スレイマンと、おそらく最強の天使が合体してしまう究極のフュージョンもある。
本作では、いろんな謎に決着がついていき、前作の登場人物が絡んでくるが、すっきりしたかといえば、謎が謎を呼んで混沌とする一方だ。
とにかく、作者の過剰な言葉の奔流にここちよく流されて、たどりついたら、ここはどこ?なのだ。
書きたい放題は、小道具にもあらわれる。
たとえば、「シヴァ神の猛り」という名のチョコバナナサンデースペシャルが出て来たり、クライマックスの格闘時に、「19年間、自分のガキみてえな小娘の小便臭えアナに突っ込むのを想像してチンポこすってきたんだろう?あぁ?無理すんなチンポ勃ってんぞ『ボクにもヤらせてェ〜ン』って頭下げてお願いしろよちゃんと判りやすいようにそのハゲ頭ピッカリ光らせてな!」なんて啖呵きったりする。
まさに書きたい放題。
重要な役どころで、コマンド・ヨーガの達人、機甲羅漢のアレックス・ナムが登場する。
彼の闘いも迫力満点だが、思う存分彼に闘わせるため、女が自らを犠牲に死ぬくだりは、クサイ!と思った。
プロジェクト・トリニティとは、32対のアザナエルの霊体爆縮で結界を作り、全239体のコードα(天使)の霊体融合で神を創造しようとするものだ。
で、プロジェクト・トリニティ発動でどうなったかと言うと、「それ」が誕生。
「それ」は神であり、悪魔であり、竜であり、巨人であり、要するに、正確には認識できないもので、それぞれの存在のレベルによって、それを解釈するもの。まあ、神だ。
「それ」が生み出される際のエネルギーで、世界は壊滅。ただし、天使とスレイマンの合体したものが、本当なら人々を殺し尽すつもりだったのに、人々を衝撃波から守る。
で、「この世は巨大な冗談だ」とか歌いだす。
世界はこれからまた作られるのか。
『ブラックロッド』がゲーム、『ブラッドジャケット』がミステリーで遊戯の典型を示したとしたら、この『ブライトライツ・ホーリーランド』は、そうした遊戯にも影を落としている意味の解放を狙ったものと言えるかもしれない。

コメント

nophoto
2018年4月9日19:00

できて100年程度の都市が一つ壊滅しただけで別に世界は壊れてねえよ

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