草森紳一と四方田犬彦による『アトムと寅さん〜壮大な夢の正体』を読んだ。
鉄腕アトム、手塚治虫について語る第1部、男はつらいよについて語る第2部。
草森紳一がサブカルチャー論を読むのはかなり久しぶりだ。よくぞ引っぱりだしてきてくれた。
表紙はタイガー立石。
手塚治虫の漫画は1965年の『W3』からつまらなくなってきた、と語る四方田氏の発言にみられるように、後期の作品はもう漫画として役割を終えている、という見解が示されている。『火の鳥』だって失敗作だ、と。(短編ですむ話を無理矢理長編にしてる、とか)
普通に漫画を読んでいた僕と、その印象は重なっているように思える。
僕の場合は、1970年の『やけっぱちのマリア』とか、『ミクロイドS』など、既にあんまり読まない漫画だったし、『三つ目がとおる』もとばして読まなかった。
後期の作品を面白く読むようになったのは、すっかり大人になってからだ。
晩年の作品なんか、面白くてしかたがない。
あと、第1部で四方田が問題にしていたのは、手塚治虫の歴史認識の甘さについて。
『アドルフに告ぐ』のエピローグで、ソロルド・ディキンスン監督のイスラエルのプロパガンダ映画「丘陵24応答せず」(1955年)を鵜のみにして綴られたと思しきエピソードが出てくるという。ナチスのユダヤ虐殺とパレスチナ問題に絡む下りらしいが、あいにくと、僕はこの映画を見ていない。
2人ともに手塚漫画が大好きなあまりか、批判的な発言が多いが、例の黒人差別問題については、漫画はもともと黒と白で表現されるしかないものだし、話の内容からも決して差別ではない、との見解を示していた。
第2部の「男はつらいよ」については、僕がちゃんと映画館で見出したのは80年代に入ってからで、全48作のうち、半分くらいしか見ていないんじゃないか、と思う。
あんまり見ていないせいか、読んでいて面白かったのは、この第2部の方だった。
山田洋次のこととか、松竹のこととか。寅さんが「ありがた迷惑」ならぬ「迷惑ありがとう」な存在であるとか。
映画での馬鹿の系譜が語られていた。阪妻から三船、三國、勝新の「無法松」の系譜と、阪妻からハナ、渥美の「道化」の系譜。この2つの系譜が三國連太郎(釣りバカ日誌)で統合されようとしている、という。釣りバカ日誌も全作見ているわけではないので、見逃している分を見ようかな、と思ったが、どれを見て、どれを見ていないのやらさっぱりわからない。
第2部でも、手塚と同様、差別の問題がクローズアップされる。
「車」姓は非人の頭目、乞胸頭の「車善七」からきているのではないか、という。この名前は「カムイ伝」でも「車弾七」という名で援用されている。
なるほど。
もっとお気楽なところでは、佐藤蛾次郎演じる源公について「知的障害かなんか分からないんだけど、寺にゴロゴロしている人で、寒山拾得みたいな感じがする」と言ってた。
第1部、第2部ともに、既に時代の役割は終えた、という認識で語られていて、「えっ、アトムのそんな読み方も出来るんだ!」「今こそ男はつらいよを全部見直せ」とかいう新しい視点はなかった。2人の語りを聞くのはとても楽しいけれど、なんだか考古学みたいだった。話題があっちこっちに飛んでいるわりに、まとまりすぎている。放談ってこういうことなのかな。
第3部でいきなり「ローゼンメイデン」とか語ってくれていたら、よかったのに。

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