クラフト=エビングの『變態性慾ノ心理』を読んだ。
リヒャルト・フォン・クラフト=エビングが19世紀に出した性倒錯に関する著作から、その症例だけを集めたのが、この本だ。
大きく3つに分けられている。
1、サディズム(能動的残虐性と欲動をともなう暴力)
2、マゾヒズム(残酷さと暴力に受け身で耐えることと性欲の関係)
3、フェティシズム(性欲が女性の身体の一部、あるいは女性が身につけている物の観念と結びつくこと)
19世紀の性科学なので、遺伝素因とともに、器質的異常が考察されている。
たとえば、「母方の叔父と祖父は精神異常、女兄弟の一人が癲癇で、もう一人は偏頭痛。両親は興奮気質」などの遺伝素因。
「頭蓋骨は平均以上のサイズだが、左右非対称。右耳は左よりも小さい。猪首。ペニスはたいへん発達しており、包皮はない」などの器質的異常。
さらに、「不安や精神の不安定から自慰が疑われる」など、オナニーの害悪が常識だった時代なのが、懐かしい。
サディズムには、切り裂きジャックなどの殺人鬼的症例がずらっと並ぶ。
でも、面白いと思ったのは、こんな症例。
商人、40才:彼のもっとも強力な性的妄想は腕を肩までずっぽり女性のヴァギナに差し込み、中を探るというものだった。
マゾヒズムには、娼婦を買って放置プレイさせたり、靴フェチなどが並ぶ。
パリ在住の紳士:女性に「侯爵夫人」と名乗らせ、自分は「伯爵」を演じる。毎回、やることの顛末は決まっている。伯爵が侯爵夫人にいたずらをし、侯爵夫人は激怒する(しなくてはならない)。控えていた召使いが出て来て、伯爵を追い出す。この同じストーリーを毎回繰り返していた。
靴フェチの症例が多くて、面白い。
少女の靴を数日借りて返す50才の聖職者。
靴屋の店先でオナニーしててつかまった34才既婚者。
女性に「汗まみれの私の足をなめろ、さもなければ猛獣に食わせるぞ」とか脅迫状を書いてもらう52才。
M氏32才が重度の靴フェチから逃れるためにとった方法というのが、面白かった。
婦人用ブーツを買って来て、毎日ブーツにキスをしてはこう言い聞かせる。
「どうして自分はこのブーツに接吻すると勃起してしまうのだろうか。単なる革の切れ端にすぎないのに」
また別の人物は、次のような涙ぐましい努力をしている。
ベッドの上に靴をぶらさげ、妻との性交時に、靴を見る。そして、妻を靴だと思い込むことで、セックスを成功させるのだ。
フェティシズムの章では、ハンカチフェチだのエプロンフェチだの皮膚フェチだの。
「ある女性の夫」は、妻がかつらをかぶると、充実したセックスをすることができた。ただ、同じかつらの効き目は2週間ほどで、髪型や長さ、色などを変えたかつらを使って、また性欲を復活させていた。5年後には、この夫婦には2人のこどもと72個のかつらがもたらされていた、という。
X氏、29才、公務員は、むしょうに裸足で道路を歩きたくなり、強烈に欲情する症例。おさえようとすると、苦痛と痙攣、心臓の動悸を感じたというから、尋常じゃない。
僕が勝手に考えた標語に「萌えとはフェチにいたる病である」というのがある。
この本で症例としてあげられているフェティシズムの数々と、属性に萌えるのは、程度の違いだけで、同じようなもんじゃないか、と思っていた。
でも、これらフェティシズムで自ら苦しんでいる人々を見ると、「萌え」にはそこまでつきつめた感覚はないな、と思った。だって、「萌え」たばっかりだし。こう言い換えるか。
「萌えとはフェチにはいたらぬ病である」

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