古川日出男の『gift』を読んだ。
短い話が収められた1冊だが、1つ1つの話はスケールが大きかったり、深かったりする。平凡な作家なら、古川日出男が10ページで語った本書の物語1つで500ページの長編を書くだろう。さらに才能のない作家なら、その長編をシリーズ化してしまうはずだ。もっとひどいのになると、番外編をいくつも書いてその場しのぎをするに違いない。
以下、各話の覚え書き。
ネタバレしているので、古川日出男ワールドを味わいたい人は、現物にあたって味わった方がいいだろう。
「ラブ1からラブ3」
砂山を築いておくと、妖精が足跡を残していくことがある。
ベランダに作った砂山に小さな足跡が残っていた!
ビデオをセットしておくと、猫がチョイチョイと足跡みたいなのを爪で作っていた。
な〜んだ、と思っていると、猫が妖精に変化して、飛び立つ!
「あたしはあたしの映像のなかにいる」
餓死しようと決断した少女は、廃墟の中で死を待つ。
その場所は映画撮影のために作られたセットだった。
衣装も脚本も残っている。
映画セットの中で幾日か過ごした後、少女は死なずに外に出て行く。
自分が映っている世界が必ずあるはずだ、との確信のもと。
「静かな歌」
奄美ひとり旅からの手紙。
出さないと決めた手紙をやっぱり出すことにしよう。
「おれはおまえとやり直したい」って。
手紙は自分よりも遅れて、そっちに届く。
そのとき、2人は元気であればいいなあ。
手紙の最初にも書いたけど、もう一度繰り返そう。
「元気ですか?」
「オトヤ君」
早熟な天才児は、世界を救う叡智を有していながら、こどもだという理由で何もさせてもらえない。
世界から疎外されたまま、絶望して4歳で死亡。
「夏が、空に、泳いで」
学校の貯水槽で熱帯魚を飼育する少年。
卒業にあたり、アクアリウムの世界を守るために共闘を誓った男女に生まれたのは、愛か。
「台場国、建つ」
天変地異で大観覧車に閉じ込められた乗客たち。
回り続ける観覧車を1つの世界として、やがて言葉が発生し、1つの国ができあがる。
「低い世界」
13才になった少女は、今まで属していた「低い者」の世界の住人ではなくなった。
低い者たちは、低い世界を知る彼女をハイジョしようと追い詰める。
大人たちは、こどもたちは純粋だと思い込んでいて、助けてくれない。
「ショッパーズあるいはホッパーズあるいはきみのレプリカ」
モデルガンを用意して、コンビニへ。
強盗するのではない。
コンビニで働くのだ。
コンビニ強盗が来た際、そのモデルガンを出して言うのだ。
「やっと使える。これなら正当防衛だ」
「ちいさな光の場所」
悪路をきりひらいてたどりついた素晴らしい場所。
再度行ってみると、反対方向から簡単にいける道を発見した。
しかし、その場所の価値は変わらない。
「鳥男の恐怖」
赤チームと青チームにわかれて、街を別の街にするゲームをする中学生。
ポストを次々と青く塗っていく青チーム。
それを阻止し、あるいは赤く塗り直す赤チーム。
そこに、どちらのチームでもない「鳥男」があらわれた。
学生たちによって変えられた街には、違う住人がいたのだ。
「光の速度で祈っている」
叔父夫婦が猫を生んだ。
猫の寿命は人間よりも短い。
こどもに先立たれる悲しみを感じる叔父夫婦。
だが、叔父夫婦は急死し、猫が残される。
猫は叔父夫婦の死を悲しむ様子もなく、生き続ける。
人間として生まれなかったおかげで生き延びる猫と、こどもに先立たれずに愛を注いだまま死んで行った叔父夫婦。
だれも不幸にならなかった。
「アルパカ計画」
アルパカをコンテナで大量に飼育する計画。
そのコンテナを船に乗せて、いよいよ大平洋航路に、
と、いう物語を書いていたら、不意の来客。
客はすぐに帰ったが、物語の続きを忘れてしまった。
アルパカは大平洋に旅立ったまま、今、どこに?
「雨」
雨のリズムが身体に満ちて、踊り出す少女。
建築現場の高い場所へと上がっていく少女。
a girlが上が〜る。
「アンケート」
無人島に持って行く3つのもの。
サンドバッグ、パンチンググローブ、応急手当てセット。
鍛えて強くなり、海賊や船の乗客が来たら、蹴散らすのだ。
いつか敗北する日まで、そうやって無人島にいる。
「ベイビーバスト、ベイビーブーム 悪いシミュレーション」
早婚がブームになり、多子化社会が実現する。
出産した十代女性は高校を中退し、女性の社会進出は激減し、養育費がかさむので大学生もほとんどいなくなった。
高齢者福祉の予算は多子世帯の生活保護にまわされ、高齢者の自殺が激増。
失業者はあふれ、治安が悪化。住む土地は不足して、大陸侵略のため戦争が起きる。
多子化社会になったら、こうなる、という悪い見本。
「天使編」
砂漠の孤立した街を女は車で逃走する。
人質にした未熟児の天使。
世界はもうすぐ彼女を中心に回りはじめる。
「さよなら神さま」
男は車のトランクをあけて、中に入り、内側からふたをしめた。
いつになっても出て来ない。
じっと見ていると、今度は女がトランクをあけて中に入り、ふたをしめた。
いつになっても出て来ない。
私も我慢できなくなって、トランクに入る。
「ぼくは音楽を聞きながら死ぬ」
大量のCDを密林の中で発見。
再生はできないが、ライナーノーツを読み、音楽を想像しながら、死んでいくことになるだろう。
幻聴が音楽を脳に届ける。
肉体は衰弱しきっているが、今日は死なないだろう。今日は生きる。
「生春巻占い」
ベトナムの生春巻を食べた夜は、夢に猫が出て来て、会話することができる。
猫にとって有益な情報を神託のように伝えることができるのだ。
いつものベトナム料理店が閉店してから、いろいろ生春巻を食べたが、なかなか猫の夢を見るにいたらない。何かが違うのだ。
しかし、今食べている生春巻は、いい感じ。
さあ、今日は猫に神託を授けることができるのか?
短い話が収められた1冊だが、1つ1つの話はスケールが大きかったり、深かったりする。平凡な作家なら、古川日出男が10ページで語った本書の物語1つで500ページの長編を書くだろう。さらに才能のない作家なら、その長編をシリーズ化してしまうはずだ。もっとひどいのになると、番外編をいくつも書いてその場しのぎをするに違いない。
以下、各話の覚え書き。
ネタバレしているので、古川日出男ワールドを味わいたい人は、現物にあたって味わった方がいいだろう。
「ラブ1からラブ3」
砂山を築いておくと、妖精が足跡を残していくことがある。
ベランダに作った砂山に小さな足跡が残っていた!
ビデオをセットしておくと、猫がチョイチョイと足跡みたいなのを爪で作っていた。
な〜んだ、と思っていると、猫が妖精に変化して、飛び立つ!
「あたしはあたしの映像のなかにいる」
餓死しようと決断した少女は、廃墟の中で死を待つ。
その場所は映画撮影のために作られたセットだった。
衣装も脚本も残っている。
映画セットの中で幾日か過ごした後、少女は死なずに外に出て行く。
自分が映っている世界が必ずあるはずだ、との確信のもと。
「静かな歌」
奄美ひとり旅からの手紙。
出さないと決めた手紙をやっぱり出すことにしよう。
「おれはおまえとやり直したい」って。
手紙は自分よりも遅れて、そっちに届く。
そのとき、2人は元気であればいいなあ。
手紙の最初にも書いたけど、もう一度繰り返そう。
「元気ですか?」
「オトヤ君」
早熟な天才児は、世界を救う叡智を有していながら、こどもだという理由で何もさせてもらえない。
世界から疎外されたまま、絶望して4歳で死亡。
「夏が、空に、泳いで」
学校の貯水槽で熱帯魚を飼育する少年。
卒業にあたり、アクアリウムの世界を守るために共闘を誓った男女に生まれたのは、愛か。
「台場国、建つ」
天変地異で大観覧車に閉じ込められた乗客たち。
回り続ける観覧車を1つの世界として、やがて言葉が発生し、1つの国ができあがる。
「低い世界」
13才になった少女は、今まで属していた「低い者」の世界の住人ではなくなった。
低い者たちは、低い世界を知る彼女をハイジョしようと追い詰める。
大人たちは、こどもたちは純粋だと思い込んでいて、助けてくれない。
「ショッパーズあるいはホッパーズあるいはきみのレプリカ」
モデルガンを用意して、コンビニへ。
強盗するのではない。
コンビニで働くのだ。
コンビニ強盗が来た際、そのモデルガンを出して言うのだ。
「やっと使える。これなら正当防衛だ」
「ちいさな光の場所」
悪路をきりひらいてたどりついた素晴らしい場所。
再度行ってみると、反対方向から簡単にいける道を発見した。
しかし、その場所の価値は変わらない。
「鳥男の恐怖」
赤チームと青チームにわかれて、街を別の街にするゲームをする中学生。
ポストを次々と青く塗っていく青チーム。
それを阻止し、あるいは赤く塗り直す赤チーム。
そこに、どちらのチームでもない「鳥男」があらわれた。
学生たちによって変えられた街には、違う住人がいたのだ。
「光の速度で祈っている」
叔父夫婦が猫を生んだ。
猫の寿命は人間よりも短い。
こどもに先立たれる悲しみを感じる叔父夫婦。
だが、叔父夫婦は急死し、猫が残される。
猫は叔父夫婦の死を悲しむ様子もなく、生き続ける。
人間として生まれなかったおかげで生き延びる猫と、こどもに先立たれずに愛を注いだまま死んで行った叔父夫婦。
だれも不幸にならなかった。
「アルパカ計画」
アルパカをコンテナで大量に飼育する計画。
そのコンテナを船に乗せて、いよいよ大平洋航路に、
と、いう物語を書いていたら、不意の来客。
客はすぐに帰ったが、物語の続きを忘れてしまった。
アルパカは大平洋に旅立ったまま、今、どこに?
「雨」
雨のリズムが身体に満ちて、踊り出す少女。
建築現場の高い場所へと上がっていく少女。
a girlが上が〜る。
「アンケート」
無人島に持って行く3つのもの。
サンドバッグ、パンチンググローブ、応急手当てセット。
鍛えて強くなり、海賊や船の乗客が来たら、蹴散らすのだ。
いつか敗北する日まで、そうやって無人島にいる。
「ベイビーバスト、ベイビーブーム 悪いシミュレーション」
早婚がブームになり、多子化社会が実現する。
出産した十代女性は高校を中退し、女性の社会進出は激減し、養育費がかさむので大学生もほとんどいなくなった。
高齢者福祉の予算は多子世帯の生活保護にまわされ、高齢者の自殺が激増。
失業者はあふれ、治安が悪化。住む土地は不足して、大陸侵略のため戦争が起きる。
多子化社会になったら、こうなる、という悪い見本。
「天使編」
砂漠の孤立した街を女は車で逃走する。
人質にした未熟児の天使。
世界はもうすぐ彼女を中心に回りはじめる。
「さよなら神さま」
男は車のトランクをあけて、中に入り、内側からふたをしめた。
いつになっても出て来ない。
じっと見ていると、今度は女がトランクをあけて中に入り、ふたをしめた。
いつになっても出て来ない。
私も我慢できなくなって、トランクに入る。
「ぼくは音楽を聞きながら死ぬ」
大量のCDを密林の中で発見。
再生はできないが、ライナーノーツを読み、音楽を想像しながら、死んでいくことになるだろう。
幻聴が音楽を脳に届ける。
肉体は衰弱しきっているが、今日は死なないだろう。今日は生きる。
「生春巻占い」
ベトナムの生春巻を食べた夜は、夢に猫が出て来て、会話することができる。
猫にとって有益な情報を神託のように伝えることができるのだ。
いつものベトナム料理店が閉店してから、いろいろ生春巻を食べたが、なかなか猫の夢を見るにいたらない。何かが違うのだ。
しかし、今食べている生春巻は、いい感じ。
さあ、今日は猫に神託を授けることができるのか?
コメント