マヂック・オペラ --二・二六殺人事件
2006年3月22日 読書
山田正紀の『マヂック・オペラ』を読んだ。
昭和史を探偵小説で読み解く「オペラ」三部作の第二弾。
本作では、二・二六事件の真相を解いている。
ネタバレですよ。
章立てが江戸川乱歩に関連しているのが、目をひく。
「押絵と旅する男・考」「N坂の殺人事件」「天井裏の捜査者」「狂気の果て」など。
目羅博士や空気男、青銅の魔人、パノラマ島、魔術師を思わせる記述も出て来る。
作者が昭和版の山田風太郎明治ミステリを目指したと自負するだけあって、芥川龍之介「歯車」、萩原朔太郎「猫町」萩原恭次郎、阿部定など多くの事物、人物が入り乱れる。
二・二六事件の真相というのは、てっとり早く言ってしまうと、二十面相の暗躍でひき起こされた、というものだ。
これだけ書くと、荒唐無稽もいいところで、どんなライトノベルか、と勘違いしてしまうだろう。それが、なかなかの読みごたえなのだ。
青年将校たちの決起と同時に捜査されるのは、乃木坂の殺人事件。
現場の向かいの床屋で、女が襲撃される瞬間を目撃、すぐに駆け付けるが、現場は密室なのだ。
こちらの事件の真相は、襲撃の瞬間以前に殺人は行われており、密室は開かないふりをしていた、というもので、トリックとして目新しくはないが、ストーリーにしっくり沿っているため、自然に読める。二階で殺されたと思われていたが、本当は1階の浴室で殺人は起こっており、死体を二階に運んだのだ。裏庭で、死体を二階まで吊るし、二階に上がって窓ごしに死体を部屋に入れたのだ。
犯行現場を間違えたのは、床屋にふだんかかっていた看板が取り除かれており、いつもとは違う風景まで見えるようになっていた。いつもなら二階しか見えないので、血を流す顔を見たとき、てっきり二階での出来事だと思い込んだのだ。
さて、密室トリックは、この作品でも特に重きを置いて書かれていない。
問題は、何者かの手によって、事件そのものの存在を揉み消されている、ということだ。
単なる市井の殺人事件だ。なぜ、権力を使って揉み消す?
青年将校の決起は戦車の出動を必要とした。
戦車が町のなかを走るには、その道を確保しておかないといけない。
そのルートは、陰陽五行にのっとり、不動の北極星を天子の宮城とし、北斗七星に乗って移動するコースをとった。
青山から乃木坂、赤坂見附、三宅坂にいたる地を天子が北斗七星に乗ってめぐる聖地としたのだ。
北斗七星がまわる軌道の内側(内裏)には歩兵連隊、秩父宮邸、三笠宮邸、青山御所、陸軍省、海軍省、陸軍大学、司法省、警視庁があり、まさに天を律するすべてが揃っている。
戦車の通り道を確保するため、床屋の看板もはずされることになり、思わぬ密室事件が成立してしまった。
二十面相(遠藤平吉)の変装能力によって、青年将校の決起は準備されたが、聖なる内裏において、普通の人間の愛憎にまつわる殺人事件などがあっては、聖域が汚れてしまう。それだけで、陰陽五行に裏打ちされた決起は中止されてしまうのだ。
こうして、乃木坂の殺人事件は揉み消されたのである。
ふむふむ。
この大長篇小説には、もっとミステリー的要素も、読みどころもいっぱいあるが、覚え書きとしては、こんなもんかな。
貴族の子弟によって構成された憲兵隊の「機動非常駐特別班」、略称「狐」(機動の「キ」と常駐の「ツネ」)の出て来るアクションシーンなんて、アニメファンあたりが大喝采して読みそうだ。
このオペラ三部作、1作めの『ミステリ・オペラ』は未読。読めば面白いに決まっているので、もったいなくて後回しにしていたのだ。そろそろ読もう。
昭和史を探偵小説で読み解く「オペラ」三部作の第二弾。
本作では、二・二六事件の真相を解いている。
ネタバレですよ。
章立てが江戸川乱歩に関連しているのが、目をひく。
「押絵と旅する男・考」「N坂の殺人事件」「天井裏の捜査者」「狂気の果て」など。
目羅博士や空気男、青銅の魔人、パノラマ島、魔術師を思わせる記述も出て来る。
作者が昭和版の山田風太郎明治ミステリを目指したと自負するだけあって、芥川龍之介「歯車」、萩原朔太郎「猫町」萩原恭次郎、阿部定など多くの事物、人物が入り乱れる。
二・二六事件の真相というのは、てっとり早く言ってしまうと、二十面相の暗躍でひき起こされた、というものだ。
これだけ書くと、荒唐無稽もいいところで、どんなライトノベルか、と勘違いしてしまうだろう。それが、なかなかの読みごたえなのだ。
青年将校たちの決起と同時に捜査されるのは、乃木坂の殺人事件。
現場の向かいの床屋で、女が襲撃される瞬間を目撃、すぐに駆け付けるが、現場は密室なのだ。
こちらの事件の真相は、襲撃の瞬間以前に殺人は行われており、密室は開かないふりをしていた、というもので、トリックとして目新しくはないが、ストーリーにしっくり沿っているため、自然に読める。二階で殺されたと思われていたが、本当は1階の浴室で殺人は起こっており、死体を二階に運んだのだ。裏庭で、死体を二階まで吊るし、二階に上がって窓ごしに死体を部屋に入れたのだ。
犯行現場を間違えたのは、床屋にふだんかかっていた看板が取り除かれており、いつもとは違う風景まで見えるようになっていた。いつもなら二階しか見えないので、血を流す顔を見たとき、てっきり二階での出来事だと思い込んだのだ。
さて、密室トリックは、この作品でも特に重きを置いて書かれていない。
問題は、何者かの手によって、事件そのものの存在を揉み消されている、ということだ。
単なる市井の殺人事件だ。なぜ、権力を使って揉み消す?
青年将校の決起は戦車の出動を必要とした。
戦車が町のなかを走るには、その道を確保しておかないといけない。
そのルートは、陰陽五行にのっとり、不動の北極星を天子の宮城とし、北斗七星に乗って移動するコースをとった。
青山から乃木坂、赤坂見附、三宅坂にいたる地を天子が北斗七星に乗ってめぐる聖地としたのだ。
北斗七星がまわる軌道の内側(内裏)には歩兵連隊、秩父宮邸、三笠宮邸、青山御所、陸軍省、海軍省、陸軍大学、司法省、警視庁があり、まさに天を律するすべてが揃っている。
戦車の通り道を確保するため、床屋の看板もはずされることになり、思わぬ密室事件が成立してしまった。
二十面相(遠藤平吉)の変装能力によって、青年将校の決起は準備されたが、聖なる内裏において、普通の人間の愛憎にまつわる殺人事件などがあっては、聖域が汚れてしまう。それだけで、陰陽五行に裏打ちされた決起は中止されてしまうのだ。
こうして、乃木坂の殺人事件は揉み消されたのである。
ふむふむ。
この大長篇小説には、もっとミステリー的要素も、読みどころもいっぱいあるが、覚え書きとしては、こんなもんかな。
貴族の子弟によって構成された憲兵隊の「機動非常駐特別班」、略称「狐」(機動の「キ」と常駐の「ツネ」)の出て来るアクションシーンなんて、アニメファンあたりが大喝采して読みそうだ。
このオペラ三部作、1作めの『ミステリ・オペラ』は未読。読めば面白いに決まっているので、もったいなくて後回しにしていたのだ。そろそろ読もう。
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