芦辺拓のネオ少年探偵シリーズ『電送怪人』を読んだ。
ミステリだから、ネタバレしてます。要注意。
物質電送機を研究していた天才科学者、御神楽龍三郎。
彼を裏切って金もうけをした男たちに、電送怪人の魔の手がのびる。
密室殺人、衆人監視のなか一瞬で名画が盗難、そして人間の物質電送。
電送によって、密室でも自由に出入りできるし、絵画も一瞬で移動させることができるのだ。
この作品は江戸川乱歩の『電人M』などの少年探偵シリーズをほうふつとさせる、少年少女向けの探偵小説の傑作だ。
通学路の道ばたの植え込みで鳴っている携帯電話。
とってみると次々とメールが届き、その指令にそって歩いていると、電送怪人のアジトにたどりつくのだ。
いかにも少年探偵シリーズらしい導入部だ。
主人公は小学生の3人だが、名探偵として森江春策が出てくる。二十面相にあたる悪役はおらず、犯人当ての興味がそれにとってかわる。
人間電送トリックはプロジェクターとハーフミラーを使ったマジックビジョン。
密室殺人は被害者の自作自演。ただし、麻酔薬を嗅ぐはずが、毒にすりかえられていた。
絵画盗難は、手品で使う一瞬で燃える素材に描いた絵に火をつける。
トリックもお膳立ても現代ならではだが、雰囲気は乱歩。
ネオ少年探偵シリーズの最初の作品がこれで、残りの未読作も期待できそうだ。

読んだ漫画は坂辺周一の『ティッシュ』全2巻。
母が再婚。連れ子(義兄)はキモデブ。
このキモデブが義妹の下着に発情したり、人形の股間にシャープペンシルの芯を何本も突き刺したり。
街に出ては娼婦に襲いかかったり。
母は新しい夫に気をつかって娘の「あいつキモい」の訴えを聞き入れないし、父親は自分の育て方に間違いはないと思い込んでいて、キモデブを信じてる。
孤立無援の娘!
これはキモデブを殺人鬼におきかえると、そのまま古典的なホラーストーリーになっており、エロ描写をのぞけば、「それなら、殺人鬼の方がこわいじゃん」と思わせるところが、残念ながら恐怖をイマイチのところにとどめている。
義理の兄だから、自分の恐怖がだれにも伝わらない、という本作のモチーフも、手あかがつくほど繰り返されてきたものだ。
作者はこの物語をもっと長く描きたかったが、雑誌の都合で短くなってしまったとあとがきで書いている。つまり、この2冊のストーリーを核にして、キモデブならではの新しい恐怖が描かれるはずだったとしたら、非常に惜しい作品だ。
サランラップに異常に執着するキモデブの習性ももっと生かせたのに。
最後に、自分が殺されるとわかってそれを従容とうけいれるキモデブの姿は、まるで蔵六の奇病みたいに、ストーリーを民話のごとき印象に連れていく。
どうせホラーのクリシェで突っ走るのなら、退治してもまた甦るくらいの開き直りがほしかったところだ。
あれでは、キモデブも人間の心を持っていたんだと思わせてしまう。
それとも、主人公の娘が、罪もないキモデブたちを殺しまくる続編でも描くつもりなのか?

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