江戸川乱歩全集第14巻『新宝島』を読んだ。
以下、作品後の覚え書き。
「新宝島」3少年漂流記。3人の少年ロビンソン・クルーソー。
3人はそれぞれ、体力抜群、知力抜群、ムードメイカーと役割分担している。
アスリートとうんちく王とピン芸人の組み合わせ。
全部お笑い芸人でまかなえそうな3類型だ。
アスリートはワッキーとかパッションとか寺門とか。
うんちく王は上田、あるいは、アスリートも含めて品庄でいいか。
問題は、お笑いムードメイカーを誰にするかだ。
これは難しい。
作品ではこの3人がたどりついた島で大冒険(絶叫アトラクションっぽい)をした後、黄金郷を発見し、それぞれ将軍、大学総長、侍従長になる。
南の島の探検奨励が国策を反映している。あるいは、国策を隠れみのにして、娯楽小説を書いた、というところか。

「智恵の一太郎」短い話が16編。
「象の鼻」池に浮かぶボールの取り方(石投げて波を起こす)
「消えた足跡」途中で消えた雪の足跡(竹馬)
「智恵の火」お椀の水で火をおこす方法(凍らせてレンズにする)
「名探偵」セルロイドの筆入れをひろってくれたのは誰(指紋)
「空中曲芸師」クモが川越えの糸を張る(糸を風に流す)
「針の穴」即席眼鏡(ピンホール)
「お雛様の花びん」トックリ蜂の壷つくり
「幼虫の曲芸」トックリ蜂の幼虫、餌の青虫の食べ方(空中にぶらさがっている)
「冷たい火」イカについてる発光バクテリア
「魔法眼鏡」筒を使うと月の見かけの大きさが変わる(筒の長さ)
「月とゴム風船」上にある月と沈みかけの月の大きさの違い(まだ解明されてないって!)
「兎とカタツムリ」音速と光速
「白と黒」光を反射する白、熱を吸収する黒
「風のふしぎ」吹いた息はすずしく感じるが寒暖計はアップ。気化熱
「ゴムマリとミシン針」穴に落ちたマリの取り方(水いれる)、灰の中に落ちた針の取り方(磁石使う)
「飛行機を生み出すたのもしい力」(ちえの一太郎君の工場見学記)鉄鋼回収で集まった釣鐘などを溶かす。それを見た一太郎は、こんなふうに思う。「それを見ていて、僕はなんだか涙が出そうになった。日本は今、たいへんなんだなあ。こんなにして戦争をしているんだなあ。けっして負けられないぞ。負けるものか」敗戦後、一太郎は何を思ったのだろう。ワープロソフトにでもなろうと決心したのか。

「偉大なる夢」スパイ探しの娯楽小説。
犯人自ら犯行現場を目撃する、というのは、まるで「皇帝のかぎ煙草入れ」
この作品中、面白かったのは、発明品を錬金術のごとく生み出そうとする男、韮崎だ。この男はまるで二十面相みたいな奴で、「油断の成らぬ突飛な男」と思われているが、なぜそんなふうに思われたかというと、次のとおり。
「ひどい変わり者です。第一こいつの家の門はあいていたことがない。いつも鍵がかけてあって商人などが来ても入ることができない。(中略)つまり交友関係が全くないのですね。では、食事なんかはどうしているかというと、すべて外食らしいのです。放浪癖があるので、家をあけて旅行することが多いらしいのですが、いつ出かけて、いつ帰ったかは、近所の人も知らないという有様です」
挙げ句の果てに、こう言われる。
「隣組の持て余しものですね」
韮崎は生まれる時代を間違えたのだ。
現代なら、これらすべての特徴は、ごくごく普通に思える。
隣組活動に熱中している方が、迷惑とかうっとうしいと思われる現代だから。

この本には、種村季弘による「幻の同居人」と題するエッセイが載っている。乱歩体験を語っているが、さすが種村季弘、と思わせる一文があった。
「乱歩は永遠の少年、アンチ・エロティカーである」
乱歩と言えばエロだグロだ、と言われて、鬼畜系とつなげて語られることが多い。
でも、アダルトビデオ見て喜んでいる境地と、乱歩の世界は遠く離れているように思う。
セックスに行きつかない紆余曲折こそが乱歩の真骨頂だと思うのだ。

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