仏鬼

2005年3月10日 読書
野火迅の『仏鬼』を読んだ。
目の前で親を殺された男が真如宗という仏教のカリスマ教祖となって、日本を大きく変えようとする。その教えは過激にしてラジカル。命を重くとらないのだ。信者たちは、平気で命を奪う殺人集団になる。この宗教のすごいところは、他人の命を理由なく奪うだけでなく、自分の命でも簡単に捨ててしまえるのだ。
およそ、命のやりとりにためらいがない。
「死にたがるのではありません。ただ、おのれの命を重んじないのです」と言ってのける。
「何ものをも戒めはしない。蟻の群が蟷螂の巣を襲おうともそこにはいかなる罪もありはしない。すべて有為無情の営みである」
しかし、人を殺す仏教なんてものを認めてよいものなのか。
このラジカル宗教に立ち向かうのは、明恵上人と、若き道元。

仏教とは何か、という討論&バイオレンス小説で、頭脳も肉体も大バトル状態の快作だ。無念無想の道元と夢と瞑想の明恵による議論も展開される。

かつてオウム騒動があったとき、世俗的な仏教の立場から、宗教の本質とはかけはなれた視点で批判がされたことがあった。宗教が人の命を奪うケースなんて、ありふれすぎている。ワイドショーレベルではしかたがないとは言え、そんな道徳の立場から宗教を糾弾することなど不可能だと思っていた。
だがしかし、一般にはラジカルな問いに身をさらして日々を過ごしている人なんて、ほとんどいない。一般に理解されない宗教が、人間にとってどんな意味があるというのだろう。

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