逢魔が源内

2005年3月2日 読書
平賀源内が、夜になると別人格になって、オカルチックな領域とも交通できる闇の存在として、いろんな事件に関わっていく、伝奇短編集。
腹を裂いて内臓をあらわにした状態で、生きている人間が出て来たり、首の骨を折って死んでしまったはずの人物が生き返ったり、起こる出来事はまさに超常的。これに挑むのが「非常の人」たる源内である。
杉田玄白が出て来たり、物産会の記述があったり、転びバテレンのクリストファー・フェレイラが出て来たり、最低限の下調べはしているようだが、内容は荒唐無稽なアクションだ。
外国の知識をいちはやく取り入れた源内は、西洋のボクシングの情報を得て、格闘時にボクシングの技術をとりいれる。日本ではボクシングなど誰も知らないので、みんなやられてしまう。研究される前のグレイシー柔術に、誰も勝てなかったようなものだ。
こうした、私だけが知っている技術もので、僕が一番面白く読んだのが、カーの『ビロードの悪魔』で、タイムスリップした主人公が過去には存在しなかったフェンシング技術で中世の騎士と戦うシーンが出てくる。そのときのワクワクは、残念ながら、この『逢魔が源内』にはなかった。
ボクシングだけでなく、エレキテルで敵を撃退したりする、格好良い源内は、どうも僕の持っている源内像と大きくずれているのだ。
ルイス・キャロルが銭形平次よろしくカードやチェスの駒を飛ばして悪と戦うみたいな設定で、まったくもって無理がある。
なお、この本は、最初著者と編集とのやりとりなどから話がはじまり、急に江戸時代に話が飛ぶ。エッセイから小説への飛躍が澁澤龍彦のように巧妙ではないので、「おいおい、いきなりか」と毎回思った。シリーズものを多数書いている著者だが、あいにくと、このシリーズはこの1冊で打ち切りになるようだ。もうちょっと面白くなるはずのシリーズだと思ったので、実に残念だ。ボクシングとかに頼り過ぎたのが、敗因か。

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