鈴木清順監督の「春婦伝」を見た。1965年。
田村泰次郎原作。谷口千吉の「暁の脱走」も同原作を映画化したものらしいが、そっちを見ていないので、比較できなくて残念。
舞台は第二次世界大戦。主人公、野川由美子は激情の売春婦で、従軍慰安婦になる。
ストーリー上、自暴自棄で従軍し、体をはった設定になっているだけじゃない。
野川由美子の熱演たるや鬼気迫るものがあり、生傷もヌードも辞さぬ女優魂を見せつけられる。
彼女はうぶな兵隊、川地民夫に恋をする。
この兵隊が軍隊とか天皇とか日本に一度も疑いを持ったことがない、完全に洗脳された日本人であり、また、要領よく立ち回ったり、女や酒に溺れたり、気晴らししたりもしないタイプの人間なのだ。
官能の海の住人が、そういう奥手な異性に魅力を感じるのは世の常で、これは女性が「ワル」に魅力を覚えるのと同様に、まったく僕には理解できない心の動きだ。
彼女はこの青瓢箪に命がけの恋を捧げる。
最初はかたくなに彼女を拒んでいたこのもやし野郎が、彼女の体当たりの恋に揺れ動きはじめる。
だがしかし、結局は「天皇陛下、バンザイ!」と死んでいくのだ。
同じく慰安婦として従軍していた朝鮮人が「日本人はすぐに命を捨てる」と嘆く。日本人慰安婦よりも値段安くコキ使われる朝鮮人慰安婦がなんとしてでも生きようとしているのを尻目に、兵隊は簡単に犬死にしていくのだ。
野川由美子がもやし兵を助けようとして、爆撃の嵐の中を走るカラックス的場面(この映画で一番感動したシーン!)では、無駄死にしようとするヒョロヒョロ兵の命を救おうとする感情があらわになるが、命を救おうとする目的が命がけの自暴自棄な行動でしかあらわせないもどかしさがある。
ところが、いざ中国の軍隊につかまってしまうと、理不尽に命を奪う鬼畜でもなんでもなく、きわめて人間的なのだ。
見栄のために同じ日本人の兵隊を殺してしまおうとする日本軍、実利をとって無駄に日本人を殺しはしない中国人、命を粗末にするな、という朝鮮人。
戦争だの軍隊だの国だのにこだわる愚かさが伝わる。
だがしかし、こういう非日常的な激動のシチュエーションだからこそ燃える恋ってのもあるわけで、野川由美子とヒョロヒョロ兵との恋もそうして生まれたんじゃないか、と思う。
そういう恋をひとつ生み出すためになら、国のひとつもつぶしていいか。
戦争の利点は、それ以外にない、と思われる。
田村泰次郎原作。谷口千吉の「暁の脱走」も同原作を映画化したものらしいが、そっちを見ていないので、比較できなくて残念。
舞台は第二次世界大戦。主人公、野川由美子は激情の売春婦で、従軍慰安婦になる。
ストーリー上、自暴自棄で従軍し、体をはった設定になっているだけじゃない。
野川由美子の熱演たるや鬼気迫るものがあり、生傷もヌードも辞さぬ女優魂を見せつけられる。
彼女はうぶな兵隊、川地民夫に恋をする。
この兵隊が軍隊とか天皇とか日本に一度も疑いを持ったことがない、完全に洗脳された日本人であり、また、要領よく立ち回ったり、女や酒に溺れたり、気晴らししたりもしないタイプの人間なのだ。
官能の海の住人が、そういう奥手な異性に魅力を感じるのは世の常で、これは女性が「ワル」に魅力を覚えるのと同様に、まったく僕には理解できない心の動きだ。
彼女はこの青瓢箪に命がけの恋を捧げる。
最初はかたくなに彼女を拒んでいたこのもやし野郎が、彼女の体当たりの恋に揺れ動きはじめる。
だがしかし、結局は「天皇陛下、バンザイ!」と死んでいくのだ。
同じく慰安婦として従軍していた朝鮮人が「日本人はすぐに命を捨てる」と嘆く。日本人慰安婦よりも値段安くコキ使われる朝鮮人慰安婦がなんとしてでも生きようとしているのを尻目に、兵隊は簡単に犬死にしていくのだ。
野川由美子がもやし兵を助けようとして、爆撃の嵐の中を走るカラックス的場面(この映画で一番感動したシーン!)では、無駄死にしようとするヒョロヒョロ兵の命を救おうとする感情があらわになるが、命を救おうとする目的が命がけの自暴自棄な行動でしかあらわせないもどかしさがある。
ところが、いざ中国の軍隊につかまってしまうと、理不尽に命を奪う鬼畜でもなんでもなく、きわめて人間的なのだ。
見栄のために同じ日本人の兵隊を殺してしまおうとする日本軍、実利をとって無駄に日本人を殺しはしない中国人、命を粗末にするな、という朝鮮人。
戦争だの軍隊だの国だのにこだわる愚かさが伝わる。
だがしかし、こういう非日常的な激動のシチュエーションだからこそ燃える恋ってのもあるわけで、野川由美子とヒョロヒョロ兵との恋もそうして生まれたんじゃないか、と思う。
そういう恋をひとつ生み出すためになら、国のひとつもつぶしていいか。
戦争の利点は、それ以外にない、と思われる。
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