ISBN:4480082093 文庫 神吉 敬三 筑摩書房 1995/06 ¥924
オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』を読んだ。
20世紀初頭の本なので、現代そのものの分析として読むと、間違う部分もあるかもしれないが、本書でオルテガが言うように、現代は、あまりにも歴史に無知なために危険な状況を生み出している時代なのだ。
そして、前言を翻すかのようだが、この本は歴史とレッテルをはってしまうには、今の時代にあてはまる部分が多い。
以下、目次と、中での引用や気になった部分のまとめ。
ジャーナリスティックなエッセイなので、厳密な正確さに心を砕く論文とは違って、読者の興味をひきつけて、最後まで読ませるだけの文章の工夫がみられる。
どれだけ名文句が飛び出すのかは、実際に読んでもらうにかぎるが。
第1部 大衆の反逆
1、充満の事実
「今日の特徴は、凡俗な人間が、おのれが凡俗であることを知りながら、凡俗であることの権利を敢然と主張し、いたるところでそれを貫徹しようとするところにあるのである」
2、歴史的水準の向上
「われわれは今日、平均化の時代に生きている。財産は均等化され、相異なった社会層間の文化程度も平均化され、男女両性も接近しつつある。そればかりではなく、諸大陸も均等化しつつあるのである」
3、時代の高さ
「真の生の充実は、満足や達成や到着にあるのではない。セルバンテスは、かの昔に「宿屋よりも道中の方がよい」といっている」
「他のあらゆる時代に優り自分自身に劣る時代。きわめて強力でありながら、同時に自分自身の運命に確信のもてない時代。自分の力に誇りをもちながら、同時にその力を恐れている時代、それがわれわれの時代なのであろう」
4、生の増大
「われわれの生きている時代は、信じがたいような実現への能力が自分にあることを感じながらも、何を実現すべきかを知らない」
5、一つの統計的事実
経済学者ヴェルナー・ゾンバルトが紹介したデータによると、ヨーロッパの歴史がはじまった6世紀から1800年にいたるまで、ヨーロッパの人口は1億8千万を越えたことは一度もなかった。ところが1800年から1914年の間にヨーロッパの人口は1億8千万からいっきょに4億6千万に増大したのである。
6、大衆人解剖の第一段階
19世紀の自由主義的デモクラシーと科学的実験と産業主義の原理が大衆を生み出した。
「大衆人の心理の2つの特徴は、自分の生の欲望の、すなわち、自分自身の無制限な膨張と、自分の安楽な生存を可能にしてくれたすべてのものに対する徹底的な忘恩である」
「飢饉が原因の暴動では、一般大衆はパンを求めるのが普通だが、なんとそのためにパン屋を破壊するというのが彼らの普通のやり方なのである」
7、高貴な生と凡俗な生−あるいは、努力と怠惰
高貴な人とは「世間に知られた人」の意味。
高貴なる生は、凡俗で生気のない生、つまり静止したままで自己の中に閉じこもり、外部の力によって自己の外に出ることを強制されないかぎり永遠の逼塞を申し渡されている生と対置される。
「大衆の魂の基本構造は自己閉塞性と不従順さからなっている」
8、大衆はなぜすべてのことに干渉するのか、しかも彼らはなぜ暴力的にのみ干渉するのか
大衆は大衆でないものとの共存を望まない。いや大衆でないものに対して、死んでも死にきれないほどのにくしみを抱いているのである。
9、原始性と技術
科学に対する無関心がはっきりとあらわれているのは、技術家大衆−医者、技師等々である。
平均人が科学から受ける恩恵と、平均人が科学に対して抱かない感謝の念の不調和。
10、原始性と歴史
今日の最も教養のある人々が、信じられないほどの歴史的無知に陥っている。
11、「慢心しきったお坊ちゃん」の時代
遺産相続以外なにもしない相続人
12、「専門主義」の野蛮性
「ニュートンは、多くの哲学的知識を必要とせずに彼の物理学体系を創造することができたが、アインシュタインは、彼の鋭い総合に到達するために、カントとマッハに没頭しなければならなかった」
13、最大の危険物=国家
「大衆が自ら行動するときは、ただ一つの方法によって行動するのみである。それは私刑(リンチ)であり、彼らはそれ以外の方法をもっていない」
第2部 世界を支配しているのは誰か
14、世界を支配しているのは誰か
「世界は今日、重大な道徳的頽廃に陥っている。そしてこの頽廃はもろもろの兆候の中でも特にどはずれた大衆の反逆によって明瞭に示されており、その起源はヨーロッパの道徳的頽廃にある。ヨーロッパの頽廃には数多くの原因があるが、その主要なものの一つが、かつてヨーロッパ大陸が自己およびその他の世界のうえに行使していた権力が移動したことである。つまり、ヨーロッパは自分が支配しているかどうかに確信がもてず、その他の世界も自分が支配されているかどうかに確信がもてないでいる」
15、真の問題は何か
「問題は今やヨーロッパにモラルが存在しないということである。それは、大衆人が新しく登場したモラルを尊重し、旧来のモラルを軽視しているというのではなく、大衆人の生の中心的な願望がいかなるモラルにも束縛されずに生きることにあるということなのである。諸君は若者たちが『新しいモラル』を口にするときはそのいかなる言葉も絶対信じてはならない」
オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』を読んだ。
20世紀初頭の本なので、現代そのものの分析として読むと、間違う部分もあるかもしれないが、本書でオルテガが言うように、現代は、あまりにも歴史に無知なために危険な状況を生み出している時代なのだ。
そして、前言を翻すかのようだが、この本は歴史とレッテルをはってしまうには、今の時代にあてはまる部分が多い。
以下、目次と、中での引用や気になった部分のまとめ。
ジャーナリスティックなエッセイなので、厳密な正確さに心を砕く論文とは違って、読者の興味をひきつけて、最後まで読ませるだけの文章の工夫がみられる。
どれだけ名文句が飛び出すのかは、実際に読んでもらうにかぎるが。
第1部 大衆の反逆
1、充満の事実
「今日の特徴は、凡俗な人間が、おのれが凡俗であることを知りながら、凡俗であることの権利を敢然と主張し、いたるところでそれを貫徹しようとするところにあるのである」
2、歴史的水準の向上
「われわれは今日、平均化の時代に生きている。財産は均等化され、相異なった社会層間の文化程度も平均化され、男女両性も接近しつつある。そればかりではなく、諸大陸も均等化しつつあるのである」
3、時代の高さ
「真の生の充実は、満足や達成や到着にあるのではない。セルバンテスは、かの昔に「宿屋よりも道中の方がよい」といっている」
「他のあらゆる時代に優り自分自身に劣る時代。きわめて強力でありながら、同時に自分自身の運命に確信のもてない時代。自分の力に誇りをもちながら、同時にその力を恐れている時代、それがわれわれの時代なのであろう」
4、生の増大
「われわれの生きている時代は、信じがたいような実現への能力が自分にあることを感じながらも、何を実現すべきかを知らない」
5、一つの統計的事実
経済学者ヴェルナー・ゾンバルトが紹介したデータによると、ヨーロッパの歴史がはじまった6世紀から1800年にいたるまで、ヨーロッパの人口は1億8千万を越えたことは一度もなかった。ところが1800年から1914年の間にヨーロッパの人口は1億8千万からいっきょに4億6千万に増大したのである。
6、大衆人解剖の第一段階
19世紀の自由主義的デモクラシーと科学的実験と産業主義の原理が大衆を生み出した。
「大衆人の心理の2つの特徴は、自分の生の欲望の、すなわち、自分自身の無制限な膨張と、自分の安楽な生存を可能にしてくれたすべてのものに対する徹底的な忘恩である」
「飢饉が原因の暴動では、一般大衆はパンを求めるのが普通だが、なんとそのためにパン屋を破壊するというのが彼らの普通のやり方なのである」
7、高貴な生と凡俗な生−あるいは、努力と怠惰
高貴な人とは「世間に知られた人」の意味。
高貴なる生は、凡俗で生気のない生、つまり静止したままで自己の中に閉じこもり、外部の力によって自己の外に出ることを強制されないかぎり永遠の逼塞を申し渡されている生と対置される。
「大衆の魂の基本構造は自己閉塞性と不従順さからなっている」
8、大衆はなぜすべてのことに干渉するのか、しかも彼らはなぜ暴力的にのみ干渉するのか
大衆は大衆でないものとの共存を望まない。いや大衆でないものに対して、死んでも死にきれないほどのにくしみを抱いているのである。
9、原始性と技術
科学に対する無関心がはっきりとあらわれているのは、技術家大衆−医者、技師等々である。
平均人が科学から受ける恩恵と、平均人が科学に対して抱かない感謝の念の不調和。
10、原始性と歴史
今日の最も教養のある人々が、信じられないほどの歴史的無知に陥っている。
11、「慢心しきったお坊ちゃん」の時代
遺産相続以外なにもしない相続人
12、「専門主義」の野蛮性
「ニュートンは、多くの哲学的知識を必要とせずに彼の物理学体系を創造することができたが、アインシュタインは、彼の鋭い総合に到達するために、カントとマッハに没頭しなければならなかった」
13、最大の危険物=国家
「大衆が自ら行動するときは、ただ一つの方法によって行動するのみである。それは私刑(リンチ)であり、彼らはそれ以外の方法をもっていない」
第2部 世界を支配しているのは誰か
14、世界を支配しているのは誰か
「世界は今日、重大な道徳的頽廃に陥っている。そしてこの頽廃はもろもろの兆候の中でも特にどはずれた大衆の反逆によって明瞭に示されており、その起源はヨーロッパの道徳的頽廃にある。ヨーロッパの頽廃には数多くの原因があるが、その主要なものの一つが、かつてヨーロッパ大陸が自己およびその他の世界のうえに行使していた権力が移動したことである。つまり、ヨーロッパは自分が支配しているかどうかに確信がもてず、その他の世界も自分が支配されているかどうかに確信がもてないでいる」
15、真の問題は何か
「問題は今やヨーロッパにモラルが存在しないということである。それは、大衆人が新しく登場したモラルを尊重し、旧来のモラルを軽視しているというのではなく、大衆人の生の中心的な願望がいかなるモラルにも束縛されずに生きることにあるということなのである。諸君は若者たちが『新しいモラル』を口にするときはそのいかなる言葉も絶対信じてはならない」
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